series story

□緑へ激昂
1ページ/1ページ










「エース!!」
「何だってんだよエース…!」
「離してくれ…!俺は行かなきゃならねぇ!」



微弱ではあるがビブルカードの消滅は進行している。
焦りが故の汗は止まらない。

エースは慣れた手つきでストライカーの用意をする。
そしてそれを止めようとする兄弟達。



「…まずは親父に事情を話したらどうだいエース!!」
「……っ、」
「何があったかはサッチから聞いたよい……けどな、家族に何も相談無しはキツいぜ…」
「……」



何がどうしてそうなったのか、エースには皆目見当が付かなかった。
どうしてあの子の命は消えかけている?どうしてだ?

そして思い出すグイディーとの会話の中に、「海賊の脅威」に畏怖した彼女の顔。

まさか…、その“まさか”だったら…
海賊が、1人の少女相手に群勢引き連れ襲い掛かったとしたら?
力を持たない子供を前に、非情な欲を乱暴にぶつけ続けているとしたら…?


「…冗談じゃねぇぞ」



約束したんだから。
何かあったら駆け付ける事を。











ーー






『……っ』



鉄檻の中からさらに檻に閉じ込められる。籠に入れられたまま、船の地下と思われる無機質な部屋に連れ込まれる。



「すげぇ!すげぇよグイディー!」
『…』
「お前、痛みも感じ無ぇのか!?ほんっ……とにすげぇじゃねぇかよ!?なぁ!?」



檻の外から何度も、何度も小さなナイフでグイディーの身体を刺し続ける男。
鮮やかな血が流れ出ても、檻の中に小さな水溜りが出来ようとも、グイディーの顔は歪まない。



「…本当、“10年ぶり”の再会で俺は嬉しいんだよ…」
『わたしを、どうするの……』



長い髪を切り落とされても、ナイフで肌に文字を綴られても、グイディーはピクリとも痛みに応じない。ただあるのは失望に沈んだ瞳。



「……俺はあれからずっとお前を探してたんだよ…。会いたくて仕方がなかった。あの時流れ着いた面妖な森に、まるで妖精の如き輝くお前に」
『…』
「そして10年前、やっとお前の森に仲間を連れて戻った時、俺は“お前ら”に完膚なきまでに返り討ちにされた。」





ーー…“仲間を引き連れて、わたしと森を襲ったの”





「でも何でだ…?何であの時からそのまま…姿形が変わらねぇんだ…?」
『…わたしは、』
「答えてくれよ〜!俺が興味あるのはグイディーだけなんだ!お前が大好きなんだよ!」
『……う、』



痛みは感じなくとも、流れ過ぎた血液と傷口は悲鳴をあげる。
グイディーの身体は限界を迎えようとしていた。
それでも男はグイディーを刺し続ける。とても笑顔で、とても楽しそうな…まるで子供がオモチャに夢中になっているかのように。

男の目には、グイディーは玩具としか映っていないのだ。



「グイディー…お前すげぇ金になりそうだなぁ…」
『…!』
「お前は、森を守る樹じゃない……」
『…わ、わたしは、…っ』
「“金の成る樹”なんだよ!」




人間なんてそんなもんなんだ。
どれだけ美しく着飾り、表面を見繕ってもツギハギだらけの汚物でしかない。
結局誰しもが心から愛すのは自分だけ。自分の私利私欲、幸せの為ならどんなものも犠牲にする。
犠牲の上に幸せが成り立つのなら、わたしはそんな幸せ、まっぴら御免。

でも、人から受けた業のせいで自分と自分の守るべきものが犠牲になると言うのならば、わたしは……



『わたし…は、…ッ、』




ぐらりと倒れる身体。
血の水溜りに肌が沈み、グイディーの視界は暗転する。

霞む視界に便乗するように、グイディーの目の奥から、輝く様な雫が溢れ出て、床に落ちた。



落ちた涙から、ゆらりと蕾が芽吹き始めた。











[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ