ブルーホール

□四十
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「俺…俺!!ほんっどに!!心配で心配でよ…」
『ぎゃっははは!サッチ隊長鼻水出てるぅ〜!』
「う、うるせぇええ!!お前俺がどんな気持ちでぇえ!うぅうう!」
『両鼻両鼻〜!!』
「こ、この野郎〜〜!!」
『はいティッシュ』
「あ、…どうも」


真っ赤な顔して号泣するサッチ隊長!
お酒臭いし鼻水汚いから引っ付いて欲しくないけど、今は許すのだ!


「お前はよ、何であの悪魔の実が危ねぇと思ったんだ?」


ベリー・ベルが悪魔の実をティーチから奪い取って、隠す為に家出したことは皆に伝えた。
最初は海に捨てちゃえと思ったけど、
拾われたら厄介だし、その後のティーチとの関係を期待する事は出来なかったから、もうあの時点でティーチを殺す事は優先的に考えてた。

掟を破る。だから、家出した。

やっぱり、最初は皆ティーチの嘘話を信じていたみたいだけど、本当の話した。親父も黙って聞いてくれていた。

サッチ隊長は、酔っ払いながら
涙を拭いて不意にベリー・ベルに聞いてきた。


『…夢で』
「夢?」
「…夢って、やっぱり“あの時”」


話に食いついてきたハルタ隊長。
ハルタ隊長にはさっき説教されまくった!ちょ〜怖かった!


『夢でさ、ティーチが…サッチ隊長を殺して、変な果物を嬉しそうに抱えてたの。そんで、それが原因で…エース兄とか親父が死ぬ夢…』
「……、」
『へ…変だよねぇ!ほんと、あはは…最初は変な夢だと思ってたんだけど、怖くなってきてさ…』
「…遠征の時の、アレだったんだね」
『そ!…なんか、ホントに起こりそうな予感?みたいなさぁ』
「…ごめんな、あの時適当に流しちゃって」
『んーん!ハルタ隊長なぁーんも悪くないの!だって夢の話とかするのトンチンカンじゃない?』
「だけど、真剣に聞いていればベリー・ベルだって相談しやすかったでしょ?」


そういえば、
その夢を何日も連続で見ていたことは
誰にも話していなかった。
怖くて怖くて仕方がなくて、
胸が張り裂けそうな気分だった。
ケーシーにもアリアにも…
誰にも言ってない、
今になって気がついた。


「ベリー・ベル、1人で戦ってくれてありがとうな」
『のわ!?サッチ隊長がありがとうって言ったーーー!!!』
「あぁん!?俺昔から皆に感謝してる超絶イイ男なんですけどぉー!?」
『ハルタ隊長ベリー・ベルそれ食べたい』
「はいよ」
「あ、無視する感じね?」
『にひひ〜』


とっても嬉しくてサッチ隊長の腕にしがみついた。
太い腕に頬を擦り付けて、
サッチ隊長の超香水臭いその香りも楽しむ。
最初は驚いてたけど、
サッチ隊長はもう片っぽの手で
ベリー・ベルの頭を優しく撫でた。
とっても優しく。


「ほら、ケーシーんとこ行ってこい」
『え!どこ?!』
「あっちだ。」
「珍しく凄い飲んでるねケーシーも」
「そりゃそうだろ〜」
『わー!“かいほー”してくるのだぁ〜〜!』
「はいはい、行ってきな」
「介抱しておいで〜」


トコトコ走って彼の元へ向かう後ろ姿を、サッチとハルタはずっと眺めていた。

「…あの縫い跡はキツいな」
「サッチまた泣いてる?」
「今日は許してくれ…」
「まぁ…見てて気分の良いもんじゃないしね」
「あーー、こんなに苦しい再会があるかよ」
「無いねぇ」
「酒おかわり」
「ご自分で」
「冷てー」





ちょんちょん、とケーシーの背中を突っつく。
「あ〜?」とか言って振り向いた
ケーシーのあほ面が面白くて笑っちゃった!
その後、いつもの険しい顔に戻った。


「てめぇええええ!!」
『い!?』


豹変。
ケーシーが大声をあげてベリー・ベルの肩を掴んできた。


「お前!!俺が!!どれだけ!心配したと思ってンだぁあ!!!」
『!?』
「何かあったら俺に言えって!昔から…昔っからずぅーーーっ…と言ってきたろうがぁあああ!!」
「お、ケーシーキレた」
「ははは!」


周りは大笑いして酒をかっ食らう。
ぼんやりとケーシーを見ると、
二年前とは見た目が変わってた。
髪も伸ばして一括り。
タトゥーも傷も増えて、
前より身体が大きくなっていた。


『ごめんなしぁぁ…』
「お前が死んだとか言われて、…ティーチに乱暴されてるって、髪まで送り付けられて…っ、俺がお前、どんな気持ちで」
『ううぅ』
「何度、後を追おうとしたことか…!」
『うううううごめんってばぁぁ…』
「ごめんで済むかぁぁぁぁぁあああゴルァぁぁぁぁああ!!!」
『ほげー!そんな怒んなくても良くない!?』
「いいや俺はお前を許さねぇあん時の俺の感じた恐怖はとんでもなかったんだとにかく許さんぜってー許さん今度てめぇそんな傷作りやがったらマジで許さん許さんったら許さん」
『ぎぃぃいケーシーのおこりんぼ!!!!早口で何言ってるか分かんないぃー!!』
「はぁぁ!?」
『はぁぁぁぁあ!?!?』

「ケーシーこんな喋る奴だったのか!」
「わっはっは!」
「デジャブだデジャブ!!」
「始まったぜいつもの2人の喧嘩!」


頬を掴み合い前みたいにケーシーと言い合いをした。
コメカミぐりぐりされた。超痛い!
だからほっぺをぐにぐにしてやった!
何すんだ!って怒ってきたけど、

ケーシーは笑ってた。


『ケーシーが居なかったらベリー・ベル、とっくの昔に死んでたのにね』
「は、」
『“あの時”、ベリー・ベルを連れ出してくれてありがとう』
「え、」
『ケーシー、大好き!』


ぎゅーっと抱きしめた。
ケーシーの首、めっちゃ太くなってた。
そしたら優しく抱きとめてくれた。
さっきまで超うるさかったのに
黙り込んで背中を撫でてくれた。
長く長く抱き着いてた。



その夜、久しぶりにアリアと寝た。
後から聞いた話、
ベリー・ベルが居なくなって
アリアは大変だったみたい。
やつれて、少し拒食症になって、
船を降りようか悩んだ時もあったって。
でもアリアは強いから
ずっとモビーで婦長を続けるって決めたって。


『ごめんね、』
「ううん、今私とっても幸せなのよ」
『アリアぁ』
「あの時から貴方はいっぱいいっぱいだったのよね、気づけなくてごめんね」
『…』
「…寧ろ気づいてた。気づいてたのに私…」



再会してから、皆ベリー・ベルに謝るんだ。
あんまり嬉しくない。


『謝んないでよぅ…』


だって悪いのはベリー・ベルだもん。
相談くらいすれば、
何か変わっていたかもしれない。
こんなにも皆に心配かける事は無かったかもしれない、ベリー・ベルもあんなに怖くて痛い思いはしなかったかもしれない。

ベリー・ベルが悪かったのに、浅はかだったのに、皆ベリー・ベルに謝るんだ…


『おやすみ!』

抱き締めながら眠る。
この香りがベリー・ベルは大好き。
優しくて暖かい、ずっと続いて欲しいと願っていたこの感触。
この日のベリー・ベルはよく眠れた。
アリアも、よく眠れたと言っていた。

切ないな、
離れると分かる、また会えば思う切なさ。
“家”って、こんな感じなんだ。






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