ブルーホール

□十八
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その後
ベリー・ベルはまた見張りを続けた。
無茶するなと言われたが
終始無言で仕事をこなした。


食事は一通り口にしたため
クルー達は安心していた。
実の親を惨殺するその光景に
生唾を飲む連中が多かった。

イゾウもベリー・ベルに休めと言っていたが
大丈夫だと言っていた。



『う、』



静かな夜がやってきて
部屋についてるトイレで一頻り吐いた。
気休めに腹に入れた食べ物達が
無残な姿でトイレの中にぶちまけられた。

喉の奥が焼けるように熱い。
胃がきりきりと痛む。
頭痛も酷い。



「ベリー・ベル、話がある。入っても?」
『……え、あ!待って!!』
「?……」


トイレの水を流し
口の中を入念にうがい薬で濯ぐ。
顔も洗うと
そっと扉を開けた。



『わぁ〜〜〜!イゾウ隊長!どしたの?』
「昼間のことで話がしたくてな」
『なあにい?』
「お前、本当に大丈夫か?」
『ええ?』



イゾウは部屋に入るなり
ベリー・ベルに真剣な眼差し。


『見ての通りだよ〜〜!ベリー・ベル、ふっかつー!』
「久々に、顔見せちゃくれねェか?」
『かお?』
「あぁ……これ外すぞ」


何故か体が硬直。
イゾウはお構いなしに
フードとサングラスに手をかける。


「ほらな、泣き跡」
『…泣き跡?』


大きくて長い指が
まだ真新しい涙跡を撫でた。
久しく目を合わせると
なんか変な感じ。


「目だって腫れてる」
『こ、これはあくびだよう!』
「なァ、お前最近嘘吐くようになったな」
『へ!?う、嘘なんか!』
「吐いてるさ。今もな」


言い返せずに俯いてしまう。



「大方、面倒かけたくないとか考えてんだろう」
『そんなんじゃないもん…』
「遠征の話持ち掛けた時もそうだ。本当は行きたく無ェ癖に無理に承諾した」
『それはだってさ、』
「迷惑掛けたく無いから?」
『うっ』


イゾウから目を逸らす。
それでもジッとこちらを見つめるイゾウが視界には入ってた。



「ベリー・ベル、お前はまだ子供だ」
『……』
「自立するには時間が必要だ」
『ベリー・ベルは、』
「怖いものは怖い、嫌な事は嫌…」
『?』
「今はそれで良いんだよ」


いつものように
イゾウはベリー・ベルに目線を合わせる。


「自分の仲間が独りで泣く姿を見たく無ぇんだ」
『……なはは、“ひとりで泣くのを見たく無い”って、なぁんか変なの』
「………」
『でもだいじょおーーーーぶ!!ベリー・ベル、強い子だもん!』
「……本当かよ?」
『おん!もち!イゾウ隊長、心配屋さあ〜ん!』
「なんだよ心配屋って」
『とにかくさ!ほら!みて!ベリー・ベル超元気!ね?』


明るく戯けるその様子に
イゾウはちょっと笑った。


「そうかい……」


イゾウは「明日も見張りよろしくな」と
ベリー・ベルの顔にサングラスを戻して
部屋を出て行った。
その背中が最後見えなくなるまで
元気に手を振った。



ポツンと静けさが残った部屋。
独りため息を吐けば空虚感に襲われる。
彼はきっと全てを
見抜いているから様子を見に来たのだろう。





自分が何がしたいか分からない。
あの時のあの行動は正しかったのか?
間違っていたのだろうか?
あんな惨い事をして、
それを見ていた仲間達は
どんな顔だった?

“そうだ!もっと殺れ!”…??
それはきっと違うはず。
あの時自分に向けられた目は
応援でも楽観でもない。

仲間は自分をどう思う?
調子に乗んなよ、クソガキめ。
そんな風に、ベリー・ベルを見る?
ケーシーも、アリアも、あの優しい親父も……
ひょっとしたら、本当は
ベリー・ベルにがっかりしてたり?
面倒くさがっていたり?



そう思ったら
硬直してた体は熱が籠もり
頬は緩み、目からは無数の雫。

トイレに顔を突っ込んで
泣きながら吐き散らして考えた。

自分が何がしたいか分からない。
自分が何故泣いているのかも分からない。
分からない、
分からない、
解らない……






『……』




イゾウが去り、
ポツンと静けさが残った部屋
空虚感が消えた後、

またちょっとだけ泣いた。










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