笑う少女

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娼婦の1人が昨日キッドによって殺された事は、残りの女達の耳にちゃんと届いた。
女達は震えあがり、次はいつ誰が殺されるのか、と恐怖に沈み落ちる。
何故殺されたのかは聞いてはいないらしいが、大方自分達の相手をするあの悪魔のような船長を怒らせてしまったの違いないと女達は察する。



「ザジ…、どうしたんだその頬、」

医務室に訪れたザジの顔を見て船医は目を疑う。赤く腫れ上がり傷も出来ている。女の子なのに顔に痛々しく傷を作ったザジの顔は、一言で言えば哀れだった。

『階段から落ちちゃって…』
「……今手当てしてやるからな。殴られたとかじゃ無いんだな?」
『顔から落ちたの。』
「…そう、か。」

船医は、椅子に座り顔を向けてくるザジの頬を軽く綺麗に拭き、傷口に消毒を掛けて手当てを始める。

「痛むか?」
『ううん』

口元に絆創膏を張り、頬には大きめのガーゼを当てる。遠くから見ても少し目立ってしまうが、これくらいはしょうがないだろう。

すると医務室に別の誰かが入ってくる。
突然開かれた扉の向こうからはキラーがやってきた。

「腕を切った」
「あぁ、キラーさん」
「ザジ、その顔はどうした」

やってきたキラーは、左腕から血を流していた。大方、自分の武器を使って鍛錬を行っていた時に傷つけたものだろうと思う。

キラーは目の前にちょこんと座るザジの顔を見て動きが止まる。

「転んだそうですよ」
「…また派手に転んだんだな」
『うん、』

治療の終わったザジは、キラーの横を通り過ぎて逃げるように医務室から出ようとする。するとそれを食い止めるかのようにキラーが言う。

「…そう言えば」
『…?』
「キッドの機嫌が昨日から最悪だ」
『……』
「何か、あったんだろう?」

ザジは、ほんの少し立ち止まってその場で振り向かずに作り笑いを浮かべ

『知らない。』

後ろ姿で返事を返されるキラーは、全て分かっているかのようだった。船医だけがその場の状況について行けず、キラーの腕を治療する。

「そうか」

そう言って少女は医務室から出て行った。









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