空蝉
□十八
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「たしぎ!!おい!たしぎはどこだ!?」
本部に着いた軍艦と、次々と運び込まれる“遺体達”から事柄を聴取。それは一気に本部に伝わった。
廊下を凄い形相で走り、誰かとぶつかろうがそんな事は御構い無し。
それはそうだ。
とある国で調査を行ってるはずの部下達が何故か本部へ戻ってきたと思えば、…人数は随分と減り、一番の部下であるたしぎもボロボロだと聞いたのだ。
何があった!?
おれの居ない間に…一体何が!?
「たしぎ!!」
「ス、スモーカー、さ、」
包帯だらけの身体に、泣き腫らした目。たしぎは突発的に顔を背けた。
「おい、何があった!?お前の口から説明しろ!!」
「ぅ、…ずも…か…ざん、わだし…ッ」
目からどんどん溢れ出す涙。その涙は彼女の色々な感情がブチまけられたモノと、一目で理解できた。
ほんの、ついこの間
クロコダイルの一件が終わった後、自分は部下であるこいつに“あんな事”を言ったばかりであるのに、たしぎのその涙は前とは違う、
悔しさだけの涙なんかじゃなく、
怒り、悲しみ、憎しみ、後悔が含まれた、ドス黒い涙に見えた。
スモーカーはすぐに声のボリュームを落とし、近くにある椅子に座った。
「…ドフラミンゴ…が…!?」
たしぎから全ての話を聞き、スモーカーの顔色が変わった。圧倒的力を前に屈し、逃げる選択を選んだたしぎは、今や自分の行動全てに後悔し自身の力の無さを嘆いてる。
「…私、っ…」
「…いい。」
「えっ、…?」
「もういい。お前は喋んな」
こんな時に優しい言葉をかける事も、ヒナのように慰める事も出来ない。
ただ、辛そうに語る姿をもう見たく無いだけ。スモーカーは冷たくそう言い捨てると、たしぎの顔は益々曇る。
「…、どこ行くんですか?」
「……上層部に、抗議する…!」
もうこうするしか手が無い。
きっとこの事は、たしぎや他の部下を通して上には伝わって居るはず。
スモーカーは足早に部屋から去ろうとしたが、たしぎがその背を引き止めた。
「待ってくださいスモーカーさん!」
「……あぁ!?」
「コゼットは、…コゼットはどうするんですか!?」
「今はそれどころじゃ無ェだろうが!!」
スモーカーにはもう今の自分を抑えられる保証は皆無。
「待ってください!!せめてあの子に全てを話し、上層部の手に回らないようにしなくては…!」
「…っ」
「下手に上層部に抗議して今までの調査結果や足跡を消されてしまっては元も子もないじゃないですか!?」
扉を掴む手にはグッと力が篭り、ドアノブを壊してしまいそうなほどに。
たしぎは正しい事を言っているのだとスモーカーにはすぐに理解できたのだから。
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