空蝉

□十六
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スモーカーが不在の今、たしぎは彼の代わりに様々な雑務をこなしていた。
自分の考えを出し、それをみんなに指示していくことに慣れてない自分にとってはとても負担だった。

こんな事を彼はいつもこなしているのか、と思うとやはり尊敬の念が増すばかり。
スモーカーが帰ってくるのは1ヶ月後だと言われているが、その間、1日1日が恐ろしく長く感じるのもまた事実で。


「A班はシェードの国、B班とC班はトルネ国へ聞き込み調査を行ってください。」
「今日の聞き込みはどんな事をベースにすればいいでしょうか?」
「A班は王室へ行き、シェードと関わった全ての人に彼と金にまつわる事を。B班は半シェード組織の行方を調べてください。」


この日はたしぎも、A班の部下と共に聞き込み調査だ。
ついこの間新国王が殺害され、国民のパニックは未だ収まっていない状況だ。


王室も王室で犯人探しに必死。


なぜシェードが王室の敷居を跨げるようになったのか、
それには恐らく、莫大な金が絡んでるのは確かだから。
船に残るのはD班のみ。


スモーカーの居ない生活は、こんな感じで慌ただしい。


ーー



『暇だ』


たしぎも凄く忙しいから、スモーカーが発ってから子供部屋に来る頻度がとても減った。
話し相手は誰もいない。
常に天井の隅に張り付いてこちらを見ている電伝虫の存在も、今や何とも思わない。


食事を運んでくる海兵に話し掛けようも、コゼットとまともに会話をしてくれるのはたしぎとスモーカーと軍医だけ。

他の海兵は、幼児でありながらも犯罪を犯し続けた自分を
陰で「愚か者」と口々にしているようで。


『とても退屈』


コゼットの鬱憤は今日も晴れない。
最近は絵を描く事よりも折紙に夢中になっており、スケッチブックを雑に破ればそれを色々な形に折り曲げていく。
部屋のいたるところに、猫や犬、鶴や燕など色んな折紙で出来た動物が転がっていた。



ここからじゃ、外の様子すらも分からぬがたしぎ達が自分を守ると言ってくれたから、此処がとても居心地の良いものへと変貌する。


『そういえば今日は静かだな』


耳を澄ましても沈黙が続く。海兵達が忙しいとは言え、部屋の周りで何の音もしない。普段なら話し声やブーツの音は絶えず聞こえてたのだが、今日だけはやたら静かなのだ。

慣れた手つきで折り曲げていく紙は、紙飛行機へと変化しコゼットはそれを、無造作に部屋に投げた。





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