空蝉

□十
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腕に点滴を繋ぎ、深く眠りにつくコゼット。
軍医がデスクに向かい書類にチェックをしていく。ベッドの横にはたしぎが心配そうに様子を伺っていた。

「…パニック障害……?」

たしぎはそっとコゼットの頬を撫でる。

「重度では無いですが、この子の場合軽くもありません。過去に心の成長に影響を及ぼす原因があった筈です。」
「……それは“トラウマ”と言う事ですか?」
「一番当てはまります。トラウマから来るパニック障害というのは“その時”にならないと訪れない事が多く、PTSDの患者より治療が厄介なのですが…」
「………」
「この子は自閉や発達障害、躁鬱などの症状は見られないのでしばらくは様子見ですね」
「そうですか…、検査ありがとうございます。」

軍医は、心配そうにコゼットに寄り添うたしぎの背中を見る。

「…一応専門の心理カウンセラーは受けさせた方が良いかと」
「…え?」

軍医は、たしぎに一枚の絵を差し出す。
それは運ばれるまでコゼットが狂った様に書き続けていた1枚の絵だった。

「…この齢の子供の描く絵では無いですね…、正直、僕も心配です。」
「………」


目玉を両手に笑う男の絵
その周りで空っぽの空洞から涙を流す人々の嘆き。
黒と、赤とで塗り潰されたコゼットが描いた不気味な絵。


「薬等はあるんですか?」
「……その事なんですが、」



軍医はさらに苦い顔をした。
その表情にたしぎは嫌な予感を察知する。




軍医とたしぎはコゼットの前ではなく、少し離れた場所で二人きりになる。

軍医は声のトーンと大きさを落とした。



「…あの子供……ちょっと、普通じゃないかもしれないです」






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