空蝉
□五
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船内に静寂が訪れる真夜中。
鍵のかかった子供部屋のベッドで、コゼットの小さな寝息が聞こえてる。
「たしぎ曹長、」
「あ、…どうでしたか?」
たしぎな顔にも疲労と眠気が現れ始めていた。真夜中の仕事部屋で、モニターに映し出されているコゼットの様子をただじっと眺めていた。
「やはり、あのオモチャの腕時計には発信機と小型通信器が備え付けられていました。」
そう言って、部下はたしぎの目の前にコゼットの腕にずっとはめられていたオモチャの腕時計が置かれた。
初めはただのオシャレで見につけていたものだと思い、取り上げる事にまでは至らなかったが…
たしぎは自分が思っていた以上に、コゼットという人物が分からなくなり始めていた。
「ありがとう。もう休んでいいですよ。あとは私が。」
部下が部屋を後にすると、大きな溜息を吐く。
暗い部屋の中で気持ちよさそうに眠るコゼットは、まるでただの子供だ。
普通の子供にしか見えない。
“仲間の事は知らない”
“仲間とはドライな関係”
この事は、嘘だったのか?
あの年齢で、シレッと疑わさせる事もなく巧みに自分に嘘を吐いたというのか?
だとしたら、他のことも嘘をついているのか?自分に話してくれた事はどこまでが嘘なのだろう。
もしかしたら、“呼び名”の事ですら嘘をなのだろうか?
「はぁ……」
正直、ショックだった。
たしぎは、机に置いてある別の電伝虫を取り出しそれをモニターにつないだ。
コゼットが暴れ出した夕方の事を記録した映像だ。
「…」
赤みの差し掛かる部屋の中で、コゼットは普通に絵を描いて遊んでいた。
時折、近くに置いてある人形を投げ捨てたりしている様子に、たしぎは微笑を浮かべる。
そして、映像撮影時の記録が17:30に近づく程、オモチャの時計をチラチラと確認する仕草が多く見られた。
そして、コゼットの声も映像に入る。
なぜだなぜだと呟いていたが、徐々に声を荒げ始める。本当に焦っている様子だった。
《何故時計が振動しない!?》
その声を聞いて改めて、たしぎは自分が今まで嘘をつかれていたこと自覚する。そしてまた、ショックを受けるのだ。
ジタバタと部屋を駆け回り壁を蹴り人形を殴り、マーカーを部屋中にぶちまけたり、甲高い奇声をあげたり…
終いにはオモチャの腕時計を引き千切って壁に投げつけていた。
言葉の通り“暴走”している。
そのすぐ後に、部下を数名引き連れた自分が子供部屋に入ってくる。
コゼットを押さえつけ、振り回す足や腕を部下が制御し、たしぎは必死にコゼットに語り掛けていた。
「……、」
しかし、その様子が
子供を虐待している様にも見えたのだ。
小さな子供1人を数人で囲み、腕や足を押さえつけ、肩を掴んで同じ様に声を荒げる自分の姿が、モニターにはしっかりと映し出されていたのだ。
離せ離せと怒り叫ぶコゼットの腕に、部下が鎮静剤を打ち込んでその場にまた静寂が戻る。
たしぎは、耐えきれずモニターの映像を切った。
「……何弱気になってるのかな、私」
たしぎは、もう不安でいっぱいだった。
机の上で、突っ伏してそのまま眠った。
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