其の凩(こがらし)
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「…」
『…』
数日経ち、クランベリーの病室に現れた1人の青年。その青年はベッドの前の椅子に座りただただ、少女と目を合わせられずにいた。
そして、続く両者の沈黙に張り詰めたこの空気に居心地の悪さを覚え始めた時、ついに青年は口を開く。
「少し、話をしに来た」
鼻の長い、クランベリーの、苦手な相手。
「“あの時”、お前さんがああしてくれなかったら…ワシらは死んでた」
『…』
二人きりのこの空間。
病室の扉は固く閉ざされたまま。
「礼を言う」
あの時小さな掌に乗せた、毒物の数々。
その薄く桃色の唇へと運ぶ、少女の度胸を、カクは苦々と思い出しては、またも目を伏せた。
「もうすぐ、W7を出るんじゃろう」
『……』
カクの目は、その時また“諜報部員”の目に変わる。
深く物事を見据え、何もかもを敵に回した野生の目へと。
「………もう、薄々気付いる筈じゃ」
一向に口を開かないクランベリーに、挑む様にカクは見つめ、これから話す内容についての少女の反応を目に焼き付けようとしていた。
「“ワシら”が、一般人ではない事を」
カクとクランベリーに起きたこれまでの事件。夜中の出来事…銃を向けたあの夜の事。
クランベリーが怪しんだカクという男の影の正体。同じ様に肩に鳩を乗せた彼もまた、クランベリーが警戒する者の一人。
『…』
冷たく、クランベリーはカクを見る。
「あの時、お前はワシを怪しんだ。」
『……』
「“白皮族は街へ降りたことが無い”と」
カクの嘘から始まったあの時の修羅場。そして向けられた銃口の虚しさ。
「ワシは嘘をついた。本当は、白皮族の存在はずぅっと前から知っておった」
『…』
固く口を、閉ざしたまま。
その口を、クランベリーはついに開く。
『…あなた達は、殺し屋なの?』
カクの額からは汗が伝る。
「…はは、それに…近いのかのぅ」
悲しそうに、カクは笑った。
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