其の凩(こがらし)

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頑なに教えてくれなかった少女の名前はクランベリー。
キッド海賊団の船の奴隷ではなく武器として同船する事になった。


だからと言ってクランベリーが他のクル―と同じ様な扱いになると言う訳でも無い。

掃除に洗濯、食器洗いや部屋掃除などの雑務の殆どの仕事はクランベリーに回るようになった。
慣れ合いも良いとは言えど、キッドは許さないだろう。時に彼は奴隷だった時の如く冷たく厳しく当たり、クランベリーに手をあげる事も多々あった。

奴隷の時と何ら変わりないじゃないか、と言えばそうなのだ。反応の薄いクランベリーにまるで面白がるようにキッドは頬を打ったり華奢な体ごと蹴飛ばしたりするのだ。

武器、とはいっても所詮武器。
武器としてでしか扱って貰えないのだ。
海軍船や海賊船が現れると、クランベリーはキッドの命令のままに銃をとり次々と血飛沫の道筋を作っていた。



「…ここで何をしている」

ある夜、クランベリーは後甲板の隅っこで黒い海を眺めていた。
キラーが近寄れば、クランベリーの近くからオルゴールの様な音色が聞こえた。

それには見覚えがある。
初めてクランベリーと会った武器庫の中
背を向けて座り込む彼女の傍らで1人でに奏でられていたオルゴールだった。

『……』
「寒くないのか」

昼間とは違って、この海域は夜になる冷える。肌寒いこの気候の中でクランベリーの服装は変わらずノースリーブのワンピース一枚なのだ。

『平気』
「…ノース出身は伊達じゃねェな」

クランベリーの傍で鳴り響くオルゴールに、キラーは不思議と美しいと感じてしまった。
普段オルゴールなど興味の微塵も無かったのに、何故かこのオルゴールの音色だけはとても心が安らぐようだ。


「これは、何の曲だ?」

聞こえるオルゴールのワルツ。
短調の混じった曲調と3拍子が幻想さと美しさを引きたてた。


『わからない』
「中々良いな」


キラーは気が付けばクランベリーの横に座っていた。クランベリーが部屋から出る事は基本仕事以外はあまり無い。



その様子をキッドは見ていた。
キラーがクランベリーの隣に座り、親しげに何かを喋っている様子を。

「……」

仲の良さそうな雰囲気を、妙に邪魔してブチ壊したくなった。未だにクランベリーの世話係兼監視役はキラーが務めている。

そのせいかクランベリーはキラーにだけ心を開きかけているのだ。キラーにだけ。


───主はおれだろうが


クランベリーに対する支配欲。
ただ手に入れるだけではつまらない。
忠実でおれを恐れる様になるにはどうすればいいのだろうか。
あの顔を、歪ませて見たい。


「…フン」

白い肌をナイフで傷つければいいのだろうか?
服を引き裂いて無理矢理犯したらどうなる?

キッドには、いつしかそんな汚い欲望が湧き出て止まらなかった。


「これは買ったのか?」

キラーの質問が聞こえた。
どこか不安になるようなオルゴールの音色も同時に届いた。

『貰いもの』
「随分古いが…家族からか」
『……』

クランベリーが何かを言っていたが、キッドにはそれが聞き取ることができなかった。クランベリーの声が小さかったため、あやふやな所までしか耳に入らない。





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