其の凩(こがらし)

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少女が捕まって丸2日が経過した。
変わらず縛られた状態で、自由を完全に奪われたままである。


「何だか気味が悪ィや」
「だな、あいつ本当に人間かよ?」

クル―は少女を蔑んだ。
それも一目瞭然の事。
どれ程の暴力や屈辱的な攻撃を受けても、悲鳴や泣き声一つ上げずにじっと黙って身に受ける。
まるで、感覚が無いんじゃないかと思うぐらいだ。同じ人間かどうかさえも疑がわしい。

「…死んでんのか?」

船番のクル―数人は、少女の元に駆け寄り生死を確認するため少しだけ覗き込んだ。
口や鼻からは血が垂れ固まり、身体の彼方此方も傷だらけで見るも無残な姿だった。

「うわっ」

少女はゆっくりと目を開き、ボロボロの顔でクル―達を力なく見つめた。
男達は引き気味に嫌がりながら少女から下がる。
まるで汚物でも見ているかのようだ。

「一応、キラーさんが食事を与えているらしい」
「トイレはどうしてんだ?」
「…それもキラーさんが行かせているんじゃないのか?」
「……」

キッドは少女を奴隷にするとは言っていたが、こんな生活を続けていてはいくら奇妙だとはいえすぐに死んでしまう筈だ。

ずっと縛りあげ吊るし、食事は一日一回。
やがては衰弱死。

キッドはそれを狙っているのかもしれないが。

『……』

少女は真っ白の髪をなびかせ、その先に見える青い海を遠い眼で眺めていた。



もう、この少女に暴力を働く者はいない。
飽きたのか、触りたくないのか、同情か…それはそれぞれだった。
ただ1人、キッドを覗いて。


「……おい、お前」
『……』

クルーの1人が少女に近寄る。
そして目の前に困ったような顔で立つ。

「傷の消毒をしてやる」
「…!」
『……』

1人のクルーがこっそりとポケットから消毒液の入った小瓶を取り出すと、周りに居た他の者達は驚いて目を見開く。


「おい、マジかよお前」

消毒液を持ったクル―の一人を止めようとする他のクル―達。それでも男は少女の前から退く事は無かった。

「どうせお前は一生この船で働かされる」
『……』
「勝手に死なれちゃ困る」
「で、でもよ…」
「それに、お前はクル―8人の命を奪ったんだ。その分働いて貰う為だ」

少女は相も変わらず無反応だった。
変わり者がこの船には沢山いるが、奴隷の傷を治癒したいと言う程の変人が居たとは、同乗者もびっくりしている所だ。

『……』

男は拘束されている少女の身体に出来た傷を、一つ一つ消毒を行った。

海賊がこのような善人行為をするのには反吐が出るほど違和感しかないが、海賊でも海賊なりに道徳心と自制心を持っているものは数多く居るのであった。








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