空蝉

□五
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次の日。
天気は大雨。





子供部屋には、コゼットと他にとても“不釣合い”な男が1人。

「……」
『……』

ずしりと胡座をかきコゼットをじっと見つめる男は…

「仲間と連絡取ってたってな」
『…』
「何が“仲間とはドライな関係”だ」


珍しく、口に何も咥えていない。
スモーカーは少しばかり口の寂しさに違和感を感じる。
そう、なぜか子供部屋にスモーカーがやってきたのだ。

そして、コゼットはいつもみたいに何かで遊ぶわけでは無く、今日はただ、床の上に力なく寝っ転がっていた。


『…今日はお前か』
「たしぎは寝てる。どっかのクソガキの所為でお疲れの様だぜ」

コゼットは、ボーッと死体の様に床に転がる。

スモーカーも、昨日の事件のことは耳にしている模様。コゼットに何があってどういうことになっているのか。

「……そろそろ、本当の事を言え」
『…』
「大人をからかうのも、ここまでにしておけ」


静かな声で言う。
しかし、それが返って言いづらさを醸し出しているんじゃないかとスモーカーは察する。
コゼットは相変わらず無反応だ。
いつも見ていた凶悪な目つきでは無く、まるで力のなくなった、疲れ切っているような顔をしていた。

(…ガキの癖して、何て面だ……)

ふと、部屋の隅に置いてあるテーブルを見れば、冷め切った食事が置いてあった。

今日の朝の食事だろうか、まるで手をつけていない。もうすぐ昼なのに。
スモーカーは溜息をついた。
そして、側に置いてある不細工なウサギの人形を手に持ち、

「おい、こら」

コゼットの顔に、ウサギの人形を擦り付ける。まるで人形遊び。

その様子は子供と遊ぶ父親の様にも見えた。
コゼットの顔や首などに人形を擦り付けていくが、コゼットは無反応だった。
スモーカーは、その扱いづらさに溜息を吐きそうになるが、諦めずに子供と“遊ぶ”。


『……キライだ』
「…?」
『…ピンクは嫌いなんだ』


スモーカーの手に持っているウサギは可愛らしいショッキングピンク。
そして、よく見るとウサギの人形はボロボロだった。
ハサミで刺した後もあれば、耳を無理矢理引っ張った跡もある。


そしてさらに、部屋の片隅のゴミ箱の中を覗けば
数々の“ピンク”がぶち込まれてあった。

ピンク色の人形、ストラップ、オモチャ、そしてマーカーやクレヨンも。
ピンク色だけが捨てられていたのだ。


『…キライだ』
「…」
『……大キライだ、こんな国』


スモーカーに向けるコゼットの背は、小さく、そしてか弱く見えた。

その背中に、何を抱えてるのか
スモーカーは気になって仕方なかった。







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