風、吹けば恋 特別編

□世界はキセキとハッピーでできているD
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そして、今ならオレもお前の気持ちがわかる。

でも。

「…だからって、愛生に手はだすなよ」

今更、カレシ風を吹かしてそんなことを言った。

真っ先に忘れられてしまうような存在だっていうのに。

「……」

すると火神は意外にも素直に聞き入れたのか、もう何も言わなくなった。

「明日には迎えに来る」

そうヤツに言い残して、オレは旅館を出た。


外はすっかり日が暮れて暗くなっていた。

「……」

オレはケータイを取り出して、森山に電話をかけた。
だけど、森山は応答しない。
続けて小堀にかけるが、やはり出ない。

(風呂でも入ってんのか?)

他の連中にもかけようとしたが、やめた。
きっとそのうち掛け直してくるだろう。

(とりあえず、飯でも食うか)

そう考えたオレは温泉街に向かい、そこで小さな定食屋に入った。

庶民的な佇まいとは裏腹に、こじんまりとした店内は多くの客で賑わっていた。

カウンター席の一番端に座ってお品書きに目を通していたら、

「笠松さん?」

どこか半信半疑な声で呼びかけられた。

「……?」

振り返り店内を見回していたら、

「やっぱり、笠松さんだ!」

と、今度は確信を持った声で呼びかけられた。

「あ」

声の出どころは店の一番奥のテーブル席で。

「お前らは…」

そこには、秀徳バスケ部の連中がいた。
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