風、吹けば恋 特別編

□intermissionW
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ここは随一の観光地、伊豆。
そして、時期は春休み真っ只中。

温泉街には、女子学生グループの観光客があふれかえっていた。
声をかけるだけならば、よりどりみどりの状況である。

「よし、まずは彼女たちに声をかけてみよう」

と、森山は目を光らせながら言った。
その視線の先には足湯でくつろいでいる五人組の女の子たちがいた。

いずれも、粒揃いの美少女である。
黄瀬がやる気ということで、ハードルを上げてきたらしい。

「よし、黄瀬。いってこい!」

さっそく、森山は頼みの綱の後輩に指示をだす。

が。

「あ、スンマセン。オレ、便所に行ってくるっス」
「おい?!」
「すぐ戻るっス!」

と、黄瀬は走って行ってしまった。

その途端、森山たちは不安におちいる。

「おい、どうするんだよ…」
「どうするって…」
「あ、あのコたち行っちゃいますよ?!」
「えーい、仕方ない! オレが行く!」

言い出しっぺの森山が足湯から上がったばかりの彼女たちに近づき声をかけた。

「やあ、君たち。少しいいかな?」

と、森山は柔らかい微笑みを浮かべた。

長身で、涼やかな眼差しの端正な顔立ち。
外見だけなら充分にイケメンである森山に声をかけられて、彼女たちは不思議に思いながらも胸をときめかせてうなずく。

「は、はい」
「そっか、よかった」
「あの、何か…?」

そうたずねられて、森山は咳払いひとつした後、言った。

「君たちは伊豆の踊り子。かの文豪川端康成の流麗な文章を具現化した存在。君たちに会うために、オレたちはここまで旅して来たんだよ」
「……」

その瞬間、彼女たちの表情が凍りつく。だが、次には。

「ごめんなさい、私たち急ぐので」
「え、ちょっ?!」
「さようなら〜」

そそくさと森山の前から立ち去ってしまった。
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