風、吹けば恋 特別編
□intermissionW
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森山は意気込んでいた。
「お前ら、今からナンパしにいくぞ!」
灯台に笠松と愛生を残した後、彼らは温泉街まで戻ってきていた。
ひとり意気込む森山に、小堀が苦言を呈する。
「ナンパって…笠松と愛生ちゃんが大変って時にそんな能天気でいいのかよ」
「それは心配ない。記憶喪失ぐらいであの二人の絆が揺らぐはずない」
「ぐらいって…そうそう記憶喪失なんてならないけどな、普通」
「運命で結ばれた二人ってのは、どんな試練に見舞われても揺るがないってことさ。…そんなことよりも!」
「そんなこと?! 今、そんなことって言い切ったな!」
「も(り)やまさん、ひどいです!」
小堀たちが避難の声を浴びせるのも構わず、森山は言った。
「オレには、明日のドライブで助手席に可愛い女の子を乗せることの方が重大なんだよ!」
「……」
その妙に気迫あふれた表情に、小堀たちは呆れ返ってしまった。
その中でただひとり、我関せずな黄瀬に小堀は耳打ちする。
「おい、黄瀬。お前からもやめるよういさめてくれよ。これまでだってナンパなんて成功したことないのに…」
ところが、黄瀬はしれっと言った。
「いいんじゃないスか、別に」
「え?」
「いきましょうよ、ナンパ」
「よーし。よく言った、黄瀬!」
と言ったのは森山だ。
「お前もやっとやる気になったか。あんなヘタレ連中放っておいて、オレとお前と可愛い女の子とで楽しい旅の思い出作ろうぜ」
そして、珍しくのってきた後輩が心変わりする前につれだそうと、肩に腕を回して引っぱるように歩き出す。
「……」
取り残された小堀、早川、中村の三人は、呆然としてそれを見送る。
そうしながら、彼らはふと考えた。
(黄瀬がやる気になってる…)
(ってことは、ナンパが成功する見込みは充分…)
(オレたちがそれに便乗しない手はない!)
「「「……」」」
三人は、目を合わせ無言でその考えを分かち合った。
そして、
「待ってくれ森山、黄瀬! オレたちも行く! 」
先を歩くふたりの後を急いで追った。