風、吹けば恋 特別編
□世界はキセキとハッピーでできているC
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私は走っていた。
ある日は、眩しい日差しの下、追い風の中を。
ある日は、雪が積もって凍る、静かな夜道を。
何のためだったのだろう。
思い出そうとするけれど、頭の中に霧がかかったようにボヤけて、どうしても思い出せない。
「黄瀬くんはスモールフォワードで、背番号7番で…」
お昼ご飯を食べた後。
お腹が落ち着くまで店内でお茶を飲みながら、私は海常のみんなのポジションと背番号を暗唱する。
「森山さんは、シューティングガードで5番。小堀さんは、センターで8番。早川くんは、パワーフォワードで10番。中村くんは、シューティングガードで9番…」
ここまでは滞りなく言えたのに。
「で、愛生ちゃん」
「……」
「笠松のポジションと背番号は?」
森山さんが確認してくるけれど。
「……」
笠松さんのことになると、頭の中がボヤッとして出てこなくなる。
「…わかりません」
「…おい」
私が首を横に振ると、すかさず笠松さんが苛々したような声をあげた。
「あとはポイントガードと4番しかねぇじゃねーか! んなの、記憶喪失でもわかるだろーが!」
「ご、ごめんなさい!」
怒鳴りつけられて、私はしょんぼり落ち込む。
「落ち着けって、笠松」
すると、森山さんが笠松さんをいさめてくれた。
「苛々したって、それで愛生ちゃんの記憶が戻るわけじゃないだろ」
「そうだよ、気長に行こうぜ」
そして、小堀さんが笠松さんの肩をたたく。
「……」
だけど、笠松さんはまだ苛々が収まらないようで、眉間には深々とシワが刻まれている。
「……」
私はビクビクしながら、そんな笠松さんの表情を伺っていたら。
「!」
バシッと目が合った。
「……」
だけど、笠松さんはすぐに顔ごと目を逸らした。
そのそっけなさに、私はなぜか傷ついてしまう。
(本当に、私はこの人と付き合ってるの…?)
それさえも、思い出せない。
何が原因なのかわからないけれど、私はどうやら笠松さんのことに関する記憶を全て無くしてしまったらしいのだ。