風、吹けば恋 特別編

□intermissionV
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木村は、急いで自転車を走らせた。

卒業後、彼は新生活が始まるまでの日々を、実家の八百屋の手伝いをして過ごしていた。

この日も配達を終えて、店まで戻ろうとしたその途中。

「なんだ?」

商店街中に賑やかなハンドベルの音が響き渡り、木村は思わず自転車を止めた。

音色の聴こえてくる方向を見てみると、そこは福引き会場で、どうやら当たりがでたらしい。

「ん?」

木村は、さらにそこに目を止めた。

なぜなら、彼が思いを寄せる少女がいたからだ。

彼女の名前は、水沢愛生。
木村の実家の店の常連客だ(詳しい経緯は、番外編『フルーツバスケット』にて)。

どうやら愛生が当たりを引き当てたらしい。

木村は自転車から降り愛生に近づいて、

「や、やぁ。愛生ちゃん」

勇気を振り絞り、彼女に声をかけた。
すると、愛生はクルリと彼の方を振り返った。

「あ、木村さん」

ところが、木村の呼びかけに反応したのは愛生だけではなかった。

「あれ? あなたは秀徳の…」

愛生ばかりに気を取られてその存在に気づかなかったが。
彼女の隣に立っていた長身の男子も、木村の声に振り向く。

そして、それは見覚えのある顔だった。

「木吉?!」

そう、彼は誠凛の木吉鉄平だった。

「なんで、お前が愛生ちゃんと買い物に?!」
「そういう木村さんこそ、どうしてここに?」

木村と木吉がお互い顔を見合わせ驚いていると、愛生が口を開いた。

「鉄平くん、木村さんはこの商店街の八百屋さんの息子さんなの」
「へぇ、そうだったのか」
「木村さん、彼は木吉鉄平くん…って、試合で対戦したことあるからご存知ですよね」
「あ、ああ…」

愛生の言葉に、木村はうなずく。

「愛生ちゃんのイトコなんだよね。一緒に買い物? ってことは、近所に住んでるの?」
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