風、吹けば恋 特別編

□intermissionU
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木吉は、ある疑念を抱いていた。

ことは数日前にさかのぼる。
イトコで同居人である愛生が福引きで伊豆の高級旅館の宿泊券を引き当てたのだ。

二名招待の三泊四日分。
誰と行くつもりなのかと問えば、

「キョンちゃんと行くつもりだよ」

と、愛生は答えた。

「そうか」

と、その時の木吉は何の疑いも抱かなかった。

むしろ、その日から旅行の日に向けて、ガイドブックを穴が開くかというくらいに読み込んだり、てるてる坊主を作ったり、いそいそと準備する愛生の様子を微笑ましく思っていた。

(よっぽど楽しみにしてんだなぁ、愛生のヤツ)

だが、旅行一週間前に差し掛かったある日の晩。

「ん?」

ちゃぶ台に伊豆のガイドブックが、ぽつんと置かれていた。

それはもちろん愛生のもので、何度も読み返しているためよれよれで、あらゆるページが付箋だらけである。

(どんだけ行きたいとこあるんだよ)

木吉はそのガイドブックを手に取り、何気なくパラパラとページをめくった。

「ん…?」

すると、とあるページに目が止まった。

「恋人岬…?」

それは西伊豆にある岬のことで、そこにあるふたつの鐘を鳴らした男女は『恋人証明書』なるものをもらえるという、カップル向けの観光地だ。

そのページにも、しっかりと付箋が貼ってある。

木吉は、ふと疑問に思った。

(普通、友達同士でこういうところに行くもんなのか?)

すると、その時。
トントントンと、二階から階段を降りてくる音が聞こえてきた。

「あ、鉄平くん」

まもなくして、愛生が茶の間にやって来た。

「これか?」

木吉はすぐにここに来た理由を察して、ガイドブックを愛生に差し出した。

「あ、うん」
「ずいぶん行きたいとこ沢山あるんだな」
「うん。伊豆って意外と広いんだもの」
「オレたち子供の頃に海水浴行ったことあるんだぜ」
「あー、そういえば行ったねぇ」

そんな思い出話をしながら、木吉は別のことを考えていた。
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