続 風、吹けば恋

□第29話 大人はわかってくれない
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「明日から三日間京都に行くんですけど、お土産何がいいですか?」

花火大会の帰りの電車で、私は笠松先輩にたずねた。

「引越し前に物件探しに帰るんです。おばあちゃんの家は古くて介護生活には不便だから、いわゆるバリアフリーの家を探すんですって」
「そっか。色々大変だな」
「ですね…」
「…そうか」

笠松先輩はそうしんみりとつぶやいて、

「お前、本当に京都へ行くんだな…」

と私の手を握った。

「なんか、今更実感わいてきた」
「……」

そんなこと言わないで。
泣きそうになるよ。

「……ウィンターカップは」

私は言った。

「ウィンターカップの頃には、こっちに戻って友達の家に泊まらせてもらって、全試合観に行きますから」

涙がこぼれそうになるのを精一杯我慢しながら。

「だから、頑張って下さいね」
「…ああ」

それから会話は途絶えて、私たちは黙り込んだ。

花火大会帰りの電車は混んでいて、賑やかでどこか浮き足立っているのに。

私たちだけが、静かだった。

少し長い沈黙の後、

「……なぁ」

笠松先輩が口を開いた。

「はい?」
「さっき、お前が言ったこと…」
「え?」

声が小さくて、聞き取りにくい。

「その…やっぱり…」
「んん?」

はっきり聞き取れず首を傾げていると、笠松先輩が意を決したように顔を上げた。
だけど、なかなか口を開かない。

「笠松先輩?」

私はきょとんとして、先輩をみつめた。
その頬は、ほんのり赤い。

電車は駅のホームにゆっくり滑り込んで行く。
するとようやく、笠松先輩は口を開いた。

「こ、今夜は、や、やっぱり」
「あ、着いた」

そこは、私の家の最寄り駅だった。
なので、私は立ち上がった。

「じゃ、また京都から帰ってきたら連絡しますね。今日はとっても楽しかったです! おやすみなさい」
「あ、ああ…」

そして私は電車から降りて、ホームから手を振り笠松先輩を乗せた電車を見送った。

ひとりになった笠松先輩は、ガックリ肩を落としている。

(人混みで疲れたのかなぁ。明日の部活に影響ないといいけど)

電車が遠ざかってから、私はホームを後にした。
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