風、吹けば恋
□第9話 恋は急がば裏道
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その日の練習が終わると、キョンちゃんたちに先に帰ってもらって、私はひとり体育館へ向かった。
いつもなら黄瀬くん親衛隊の監視があるからとか、他校生だからあまりウロウロしちゃいけないって遠慮して、体育館には行かないようにしていたのだけど、今日はもう我慢できなかった。
どうしても、一目でも、笠松先輩の姿がみたくて。
ひとりだけ違う制服なのを好奇な目でみられながらも、(おそらく黄瀬くんのファンであろう)女の子たちに混じり体育館の中を覗く。
バスケ部はミニゲーム式の練習をしている。
やっぱり一番目立つのは、ガンガン点をとる黄瀬くんで、その度女の子たちから甲高い声があがる。
でも私の視線は、その黄瀬くんにパスを出す笠松先輩に釘付けになる。
ボールをキープしながら、時々、フォーメーションを確認するように空いている手を掲げて指示を出す。
私が一番好きな仕草。
「ポジション取るの遅ぇぞ!チンタラしてんじゃねぇ!」
ちょっと怖いけど、よく通る大きな声。
みつめていると、自然と顔がにやけてしまうのだけど、これでしばらく見納めなのだと思うと、暗く沈んだ気分になってしまう。
そう。
海常での合同練習は、本日をもってしばらくお休みになったのだ。