moon shadow
□第一章
1ページ/5ページ
あれは私が三歳のときだった。
――――――
キキーッッ
「お兄ちゃんッッ」
「大丈夫だ。愛美、僕につかまれっ!」
急ブレーキをかけた車は、たちまち崖から落ちた。
病院に運ばれた私は、幸い命に別状はなかったが記憶を失っていた。
私は誰なのか、ここはどこなのかすらわからない。
覚えているのは、事故直前の兄の言葉だけ…。
私は退院後『月影 愛美』という名前を持ち、施設に入れられた。
後から聞いた話、
あの日車に乗っていたのは、父母、兄そして私の四人。
父と母は即死。
兄は唯一の親戚の家に引き取られ、2人は無理だということで、私は施設に入れられたらしい。
兄は私と同様記憶を失い、妹がいたことすら忘れてしまった。
そのため混乱させてはいけないと、私と兄が会うことは決して許されなかった。