BOOK 3 (短編集)

□選択の時 〜お前への想い〜
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その日俺はいつも通り朝稽古で素振りをしていた

ぶん ぶん ぶん 
風を切る音が突然 ボキッ と木刀が折れる音へと変わった
この時『 これから何かが起こる 』と言い知れぬ胸のざわつきを覚えた。
それは俺にとって ただ事ではないと告げるかのようにその後寺田屋に早文が届けられた
高杉さんから「麻里耶を連れて藩邸に来られたし。」と記されていた


文をみた武市先生と共に俺は麻里耶を連れ長州藩邸へと向った
そこで俺が朝に感じていた『ただ事ではないこと』が眼の前で起こっていた


それは・・・麻里耶や香寿とはまた違う珍妙な格好の女子がそこにいたからだ。
髪は坊主かと思うぐらい短く裾の長い洋服をまとっていた
留里子と言う名の女子が今俺の前で涙を流し麻里耶や香寿と抱きあっている
その光景をただ静かに見守るしかなかった。


『十日後扉が開く』その言葉が俺の中に響く


高杉さんが麻里耶と香寿に問いかけている
「意味をわかっているな?」と・・・
同時に俺にも問いかけられているように思えた
もしかしたらあいつは・・・
麻里耶は・・・十日後ここからいなくなるかもしれない


・・・ふっ
・・・よかったじゃないか。帰れる方法がみつかったんだ
元いた場所に帰れる事はもともとあいつが望んでいた事だ


なのにこのもやもやするこの気持ちはなんだ・・・
俺は麻里耶が悲しそうな顔をして此方をみている事に気づかぬふりをした


麻里耶どうしてお前は今にも泣きそうな顔をしている?嬉しくはないのか?
香寿と留里子と呼ばれた女子と三人出て行くお前の後ろ姿に俺はそう問うた


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