俺と私の小さな初恋
□触れた手が
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立海に転校してから一週間が経ち、ようやくこちらにも慣れてきた。最初は転校生っていうことで周りからはいろんな目で見られとったけど、それも収まりつつあり、後は時間が過ぎていくだけ。
元々周りからは明るい性格とか元気とかいわれとったのもあってクラスに馴染む事に苦労はせーへんかった。
今の悩みは部活をどうしようかと検討しとったところ。別に強制ではないんやけどやっぱり何かをしたいというのは四天宝寺の頃からは全く変わらない。
「比奈岸さん、おはよう」
「おはよう、幸村君」
隣の席のクラスメイト、幸村精市。
自分は一方的に彼のことをよく知っとる。テニス部のマネージャーをやっとった自分は他校のデータを集めたり分析したりと色々やとった。
その中でもここ、立海大付属男子テニス部の当時部長だった彼は「神の子」なんてあだ名をもってた負けなしのプレイヤーやった。
うちらの代、今の高一の最後となった全国大会では今まだかつてないような試合を見てしまったと思うほどの激戦やった。
立海は結果的には優勝することは出来へんかったけど、多分…悔しい気持ちとどこか満足したっちゅう感じなのが伝わったのをよう覚えとる。
クラスで指名された席の前には「達人」の異名を持つ柳蓮二がおった。試合とかでもっとるデータノートは常に持ち歩いてるんやな〜なんて、変なところで感心しとった。
「そういえば比奈岸さんは部活、どうするか決めた?」
転校初日、彼と目が合うと何故か彼は目を逸らすことが多く最初の頃に比べてみると今では彼の方から話しかけてくることが多い。
「今のところは美術部にしようかな思うとってな…」
「美術部?」
「おん、描くのも見るのも好きなんや」
「へぇ、比奈岸さんは運動は苦手なのかい?」
「んー、どっちかと言えば好きやな。小さい頃は空手やっとったし」
「空手かー、なんか意外だな」
「せやなぁ…今やと意外ってよう言われるで?小さい頃は髪もこんな長くなかったやから」
「え、ショートだったの?」
「長いと巻き込まれたり結ぶのがめんどうやったから」
運動をするのは好きやった。自分の体を自由に動かせて無我夢中になるのが大好きやった。
幼馴染の彼も幼いころから幸村君みたいにテニスをやっとって、二人でよく公園に行ってはラケットの握り方や打ち方を教えてもらいながらボールを打ってたのを思い出す。
「中学はテニス部マネージャーをやってたんだよね?またマネージャーやるってのはどうなんだい?」
そう聞いてきた幸村君がテニス部だったなというのを思い出してこれは勧誘かな?と思ってしまったあたり運動部はどこもマネージャーが欲しいらしい。
「あれは顧問やったオサムちゃんに頭下げられてまでの頼みやったからやっとっただけや…教師に頭下げられるなんて流石に恥ずかしかったで」
「四天宝寺は随分と賑やかなところだったんだね」
「賑やかなんてレベルのもんやなかったで?毎日がお祭り騒ぎやったわ」
「それでも練習は厳しいんじゃないかな?去年の大会を見るとどれだけ練習してたのかがよくわかるよ」
流石はあの幸村やなと素直に思うた。四天宝寺の部長やった彼、白石蔵ノ介はオンオフのあるホンマにええ奴やった。
楽しむときはホンマにアホちゃうかというぐらい楽しむ反面、練習となればその姿はまさにうちらの聖書(バイブル)やった。
「部長が部長やったし副部長やったケンちゃんもしっかりしとったからかや…まぁ個性が強いちゅうのもうちの良かったところや」
「ふふっ、それもそうだね」
「何やら面白そうな話をしているな」
「柳君、おはようさん」
「ああ、おはよう」
「おはよう、珍しく遅かったね」
「職員室に少しな…何の話をしていたんだ」
「部活は何にするんって話から四天宝寺の話」
「随分と会話が変わっているが…部活に入るのか?」
鞄を持った柳君が自分の机に鞄を置いて椅子に座るとうちらのほうへを体を向けた。
「美術部に入るろうか迷っとってな…今日活動日らしいで見学にでも行こうかな思うてんねん」
「美術部か…部員数も少なく活動日もかなり曖昧ま部活ではあったが…」
「活動日は別にあんま気にしてないでええし、パンフ見ると結構お気楽な部活とちゃうん?」
「確かに美術部って案外賑やかなん人達がいたね」
「四天宝寺といい勝負ではないのか」
「なんやねんそれ、あんなんどこにでもいるみたいな言い方せんでや」
この二人と話すのは嫌いやない。白石や謙也とはクラスが一緒やったしなんだか似たり寄ったりなところがある。
それに幸村君と白石は似てないようで妙なところが似ているなとこの一週間の間で少しだけ感じた。
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