黄瀬くんと幽霊センパイ 3




『黄瀬っ!!』

どういう運命だったのかは分からないが俺は幽霊のセンパイと知り合った。
しかも幽霊のセンパイの名前は笠松幸男といい体育館に住みついている霊だった。だが、今までの霊とはどこか違うようで…俺はその霊と親しくなっていた。

「ちょっ…しー!!笠松センパイ、しーっスよ!!」
『あ、悪い。ついつい呼んじまった』

慌てて口許に手を当てて焦る仕草に思わずどきりと心臓が跳ねるのは気のせいだろうか。
だが、ここは放課後の体育館だ。
ただでさえ霊感体質である俺は森山先輩につい最近怪しまれたというのに、誰もいないところに向かって話していたら気味悪がられてもおかしくないはずだ。
だが笠松センパイと話したい、という気持ちはある。

「終わってからお喋りしましょっス!」
『おー、分かった
ちゃんと練習しろよ?』

ほら、こういうところが今までの霊たちとは違うところだ。
今までの霊たちは俺が知らず知らずに目があってしまうと取り憑いたりとしていて何を言おうとくっついてくるというのに彼だけは俺の言葉を聞いてくれるのだ。
それが嬉しくて、堪らなかった―

「笠松センパイ!あのね、今日ね」

何か嬉しいことがあると報告する小さな子供のように俺は放課後に笠松センパイにたくさんの話をした。それを嫌な顔をせず笑ってくれて、たまにツッコミもいれてくれて―その時間が楽しかった。

「あ、俺ね今度CMのオファーがきてるんスよ!!ねっねっ?凄いっしょ??」
『おー凄いな!!テレビに出んのかっ』
「そーなんスよ!なんか、俺のことを高く買ってくれてる人が…」

こんな話、普通の人に話したら嫌味としてしか受け入れてもらえない。
だけど、そんな話でも笑ってくれるから俺はこの人を心の底から信頼できた。

「ね、センパイ。」
『何だ?』
「今度の土曜に遊ばないっスか?」
『は?』

心底分からない、という顔で聞き返された。だけどここで引き下がるほど俺は簡単な男ではない。いけ、黄瀬涼太。頑張れ、黄瀬涼太!!…とか応援してみると予想外に痛々しいものだ。

『……遊び、か』

ぽつり、と呟かれた言葉は少しだけ嬉しさが混ざっているように感じられた。

「じゃ、じゃあ―!!」
『でも駄目だ、俺は遊ばない。』

まさかの返答はyesではなくnoだった。
断られることを考えていなかったため最初は耳を疑い放心状態だったがもう一度、幽霊センパイは答えた。

『俺は、遊ばない』

その言葉は今までに味わったことのない痛みを胸に残した―



お父さん、お母さん、姉ちゃんたち
俺は初めて誘いを断られたよ、まる





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