短編小説
□さよならシグナル
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ずっと、ずっと好きでした―
「あーあ、ついに卒業かぁ…」
「早いもんだなぁ」
薄暗い夜道を手を繋いで歩きながら嘆く。
3年間通いなれた通学路とも明日でお別れをしなければならなくなる。
何気ない通学路でも、たくさんの思い出が詰まっていて、それは不思議なことに脳裏に流れ消えていく。
笠松と小堀と3人でワイワイしながら帰ったり、アイスを食べながら帰ったり、小堀と喧嘩して涙目で帰ったり、手を繋いだり――
この通学路には小堀とのたくさんの思い出が詰まっている。
こうやって並んで帰れるのも今日で最後だ。そして、小堀と一緒にいられるのも―
「森山?」
「えっ、あ!!ごめんっ」
「いや…大丈夫だけど…考え事か?」
「んーまぁ、そんな感じ?」
「はは、何で疑問系なんだよ」
小堀は苦笑するが、その顔は本当に楽しそうで胸が締め付けられる。
ぎゅっと小堀に気付かれないように、制服を握り俯いた。
本当はずっと一緒にいたかった。
でも、それは出来ないことで諦めないといけないこと。
「…森山?」
あーあ、またそんな心配そうな表情で優しく声を掛けるんだから…
ホンット、小堀って優しいよね。
「小堀!!」
俯いていた顔を上げて、今出来る最高の笑顔で小堀に抱きついた。
「どうしたんだ、森山、いきなり…」
「…好き、だぁいすき…」
ずっと好きでした。
優しくて温かな貴方のことを、最初から―
「……森山?」
ゆっくりと小堀から離れる。
温かな体温や優しい香りが一緒に離れ、泣きそうになってしまう。
「 」
私が言った言葉は車の音で掻き消されたから小堀には聞こえてないだろう。
小堀がきょとんと首を傾げているのがその証拠。
「帰ろう、小堀」
ぎゅっと握った手から体温をまた感じた。
せめて最後ぐらいこれくらいのことは許してくれるよね、神様。
次の日
卒業式なのに来ていない森山にメールや電話をしても出なく、朝礼のときに言われた言葉が信じられなかった。
「森山さんは外国に転校することになって卒業式には出席出来なくなりました。」
担任の言葉が信じれず耳を疑ったが昨日の森山の様子を考えれば察しがついた。
昨日の森山の表情や声を思いだし、泣きそうになった。
あの抱きついたりしてきたのは――
さよならシグナル
(別れの合図だっただなんて、)
(大好きだよ、元気でいてね―)
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