捧げ物・頂き物小説

□30000hit フリリク
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なんで…なんでなんだよ……



笠松は、目の前の光景に、ドン底に突き落とされたように感じた。笠松の視線の先には、濃紺の髪をした己の恋人と、淡い桃色の長い髪をした綺麗な女性が仲良く歩いていた。
滅多に会えない恋人に、会いたくなり、貴重な休日を使って、笠松は東京まで足を運んだ。
いつも年下の恋人に好き放題されているから、仕返しするために、恋人には内緒で驚かそうと考えたのが、悪かったんだ。まさか、恋人の浮気現場を目撃するなんて。

笠松は、当初の目的を果たさずに、その場を去った。






ここ数週間、笠松と連絡が取れなくなった。

メールを送っても、返信はいつまで経ってもこないし。
電話しても、一向に出る気配もない。留守番サービスに変わるだけだった。
そして、それのかけ直しもない。

青峰は、手元にある淡い青色のスマフォを見つめる。未だに、恋人である笠松からの連絡はない。
青峰は、だんだん焦燥に駆られた。

「どうして、出てくんねぇんだよ、笠松……」

青峰は、祈るようにもう一度、笠松に電話した。それでも、電話のコールする音だけで、留守番電話に繋がるだけだった。

「くそっ……」

青峰は、スマホをベッドに放り投げ、それと共に己の体もベッドに身を委ねた。
なんで、なんで出てくれないんだ。
ここ最近会えていない為、余計青峰を不安にさせた。

会いたい。
触りたい。
声が聞きたい。
抱き締めたい。

青峰は、ギュッと布団にシワを作る。そして、決意したように、顔を上げた。
再びスマホを持ち、明日休む。と、幼馴染みにメールを送った。










周りにいる灰色の制服から浮いている、黒に近い紺色のブレザー姿の青年が1人。
平均の身長よりも遥かに高い青峰は、何もしなくても、注目の的だった。だが、今の青峰にはそんなことはどうでも良くて。目的の人物に会う為に、迷うことなくあの場所へと向かった。

笠松に会う為に、何回も通った海常の校内の図は、青峰の頭の中に既にインプットされている。おかげで、時間をかけずに絶対に笠松がいるであろう場所についた。校舎から少し切り放された場所にある、小さな建物。そこからは、ボールのスキール音、掛け声、バッシュの擦られる音が聞こえてくる。それは、青峰のいる桐皇よりも熱く、ひとつに纏まった“チーム”らしく。それを築き上げた、小さな主将の背中を思い浮かべる。
誰もが、ついていく、ついてこさせるその背中は、青峰でさえも羨ましく思う時があった。強い。そう思わせる程だった。
でも、実際は弱い人なんだと、青峰は恋人という関係になってから気付いた。

青峰は、ドアの入口から中を覗き込む。中は、やっぱりというか、真剣にバスケをする海常の選手たちがいた。その中から、笠松を探す。青峰の目は、笠松を容易に捕らえた。なんたって、元チームメイトであった、派手な金髪の犬が側で騒いでいたからだ。

「笠松センパイ!
今日こそ、最後のゲームで同じチームになりましょう!
同じチームに、なれますっスよね?」

「知るか」

「冷たっ!!!???
笠松センパイ前々から冷たかったっスけど、ここ最近、更に冷たくなったっス
何か、あったんスか??
俺で良ければ、相談に乗りますよ?」

まるで、不調の飼い主を心配する犬のように、黄瀬は笠松にまとわりつく。もし、耳と尻尾がついていたなら、間違いなく垂れ下がっていただろう。

その光景は、海常バスケ部にとっては、なんら問題もなかった。ああ平和だなぁー、程度だった。だが、それは青峰の思考を止めらせるには十分で。

「笠松サン!!!」

青峰は、考えるよりも先に、体を動かしていた。
他校の生徒が、しかも他校の体育館を無断で入り、コートを横断する。邪魔だとか、迷惑というより、清々しいなと思ってしまう程の堂々っぷりに、バスケ部のメンバーは感心してしまった。名前を呼ばれた笠松は、青峰を見るなり、逃げるように足の爪先の方向を変える。だが、それを阻むように、青峰が笠松の手首を掴んだ。そして、それを呆然と見ていた黄瀬に、「コイツ貰ってく」と一言残し、体育館を出た。




「……なんで、電話にも出ないんだよ」

体育館から少し離れた、倉庫の前。そこは、普段から誰も寄らず、人がいない。そこで足を止めた青峰は、笠松に聞いた。青峰は、笠松の方向を向くが、笠松が俯いている為、顔が見えない。答えも返ってこない。

「なぁ、笠ま―「別れて欲しい」

もう一度問おうと、口を開いた瞬間、笠松が発した。その言葉に、青峰は全身凍り付くように感じた。
笠松は未だに顔を上げず、地面を見つめたまま。

「お前は、やっぱり普通に生きていた方がいいんだ
俺みたいな、男と付き合うより、可愛い女と付き合って、結婚して、普通の幸せを手に入れて欲しい」

「なんで、そうなんだよ…」

とても、低く、冷たい声だった。今まで聞いたことのない青峰の声に、笠松はビクッと肩を上げた。それでも負けじと、笠松は言い返す。

「お、お前には可愛い女の子がいて、そいつといた方が、やっぱり幸せになれるんじゃないかって」

「だから、どうしてそうなったんだって聞いてんだよ」

「……っ
だ、だって、見たんだもん
お前が、俺のいない所で、綺麗で可愛い女の子と、仲良く歩いているのを
そしたら、俺よりもそっちのがいいのかって…」

不安になって。
ポタポタと、笠松の目から溢れ出てくる涙は、地面を濡らしていく。青峰は、笠松の言葉を最後まで聞くと同時に、笠松を強く抱き締めた。

「アンタ、頭良い筈なのに、馬鹿なんだな」

「馬鹿ってなんだ―…!!!!」

青峰の暴言に、笠松は反射的に顔を上げると、目を丸くした。そこには、今にも泣きそうな、なんとも情けない顔をした青峰がいたからだった。

「あ、おみね…??」

「俺の普通の幸せは、アンタが俺の傍にいて、笑ってくれることだ
泣いて、シバかれたり、ただ傍にいてくれるだけでもいい
それが俺の普通で、最高の幸せなんだ」

世間の幸せなんてどうでもいい。アンタさえいてくれれば、他にはなんにもいらないんだ。

笠松に語る青峰の声は、さっきの冷たい声には似ても似つかない程、優しく甘かった。

「…ごめん、青峰」

「お願いだから、別れるなんて言うな
俺は、笠松サンがいないと駄目なんだよ」

「……ああ、俺もだ」

ギュッと、抱き締められたあと、互いのおでこをぶつけ、キスを交わした。数週間ぶりのキスは、2人を夢中にさせる程甘く、暖かいものだった。



『異常だけど、それが俺たちの幸せ』

(っていうか、綺麗で可愛い女ってなんのことだ?)

(え、あー、この間東京に行ったら、お前が街を歩いていて
その隣にいた、薄いピンク色の髪をした女の子と仲良く話してたじゃねぇか)

(薄いピンク色の髪って…
それ、多分幼馴染みだよ)

(幼馴染み??
なんだ、良かった
俺に飽きて、新しく彼女を作ったのかと思ったけど違うんだな!良かったー)

((笑顔は可愛い!!けど、なんか複雑!!!))








尊敬する鏡月 様のサイトが30000hitでフリリクを募集されていたので
リクエストさせていただきましたっ!!!
うわあああぁぁぁぁぁ!!!私、こういう作品すっごく大好物なので嬉しいですっ///
もう、なんとお礼を言って良いのか…
こんな素敵な小説ありがとうございました!!

30000hitおめでとうございます。
これからも、よろしくお願いします!!



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