ショート(リアル)
□憧憬
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「お疲れ様」
オリンピックが終わって、息つく暇もなく今度は映画の番宣の日々を送っている翔くんとレギュラー番組で久々に会った。
まあ、俺も毎日撮影しているからプライベートで会うことは難しいんだけど。
「いや、しかしお前こそ、今回のドラマホントに大変そうだな」
そうなのだ。
このドラマには欠かせない妄想シーンまで細かく撮影するから今までのドラマよりも拘束時間は長いかもしれない。
「だね、確かに時間はかなり費やしてるかも。」
「でももうすぐ終わりだろ?」
撮影も、放送も残り僅かだ。
でも、それが終わったら次の仕事に本腰を入れなくてはならない。
「うん、翔くんも映画公開されたら少しは余裕でる?」
相葉くんの映画の撮影は終わったみたいだけど、リーダーもニノも来期のドラマ撮影が始まっている。
…二人でゆっくり出来る時間は今、かもしれない。
「…ああ、……どっか行くか?」
少しの期待を込めて放った言葉を、翔くんはきちんと受け止めてくれる。
負担になりたくないから、直接言えない俺の気持ちをちゃんと汲み取ってくれる。
「…桜、見たいなぁ」
二人の時間が出来た頃にはこっちも咲いているだろうか。
同じ景色を眺めて、同じ季節を愛でることがなかなか叶わないことに、少しの不自由を感じることもある。
どこか行くか?と聞いてくれてはいるけど、それが実現するとも限らない。
「俺ら二人が昼間っから花見も目立つかな」
「じゃ、夜桜でもいいよ」
「あ、でも、みんな桜に気を取られてるから気づかないかもな、よし、」
早速パソコンを開き、開花予想を調べ始める翔くんが、画面から顔を上げて俺を見た。
「なに?」
「お気に入りの場所があるんだ。そこに行こう?」
何故だろう。
二人で新しい景色を見るのも。
あなたのお気に入りの場所を俺に見せてくれるのも。
どちらも同じように嬉しいのに、後者は特に、自分が認められているように思えるのは。
「…うん。」
「そうだ、松本に松本を連れていこう」
「…ダジャレ??」
ドヤ顔の翔くんに、呆れたようにため息をついて見せたけど、そんな風に照れ隠しをするところもいとおしくてたまらないのだ。
「じゃあ、櫻井が松本を松本の桜を見せに連れてってくれるんだね」
「ややこしいわっ!」
映画の中で翔くんに寄り添う彼女は、現実では俺だと思っていいのかな?
少し苦手だったあの映画も、好きになれそうな気がした。
End.