ショート(リアル)
□憧憬
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撮影の合間。
楽しい現場だけど、撮影が今までのドラマよりもかなり多くて睡眠時間も結構短い日々が続いていた。
「……俺も頑張んなきゃっ!」
翔くんから届いたメールを開き、彼の声に変換させてその言葉を読む。
連日の熱戦を伝える様子や、惜しくもメダルを逃した選手にインタビューする姿などを見て、少しばかりの優越感らしきものに浸っていた。
うちの翔くんはこんなにもしっかりと選手に向き合い、沢山のアスリートの中で臆することなく、キャスターの仕事を全うしようとしている。
素直にその姿がかっこいいと思うし、何だか鼻が高い。
特に、沢山のメディアに注目され、メダルを期待されていたけれど惜しくも逃してしまった選手に話を聞くのって結構辛いと思う。
それまでの努力の全部を知っている訳でもないのに、簡単に慰めの言葉をかけることもできないし、彼らのことを思えば何も聞かずにそっとしておきたいはずだ。
でも、キャスターはそこに突っ込んでそれを伝えなければならない。
その姿だけで、俺は勇気づけられる。
頑張らなきゃ、と思わせてくれる。
でも、翔くんからのメールはそんなことはおくびにも出さず、オリンピックの興奮と、俺への労いの言葉が綴られていた。
自分が大変な時でも、俺を思いやってくれるその優しさに心がほぐれた。
「お待たせしましたー!撮影再開しまーす!」
スタッフが呼びに来たのに返事をして、スマホをバッグに戻す。
「それじゃ、いってきます」
頭の中に反芻する翔くんの言葉に背中を押され、楽屋をあとにした。
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