ショート(リアル)
□憧憬
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目の前に繰り広げられる様々な演出に目を奪われる。
でも。
こんな時でも浮かんでしまうのは、彼の顔。
見せたかったな、と思う。
彼ならどんな感想を持つだろう。
目を輝かせるだろうか?
感心するのだろうか?
照明とか、音楽とか?俺は気づかないようなところまで目がいってしまうんだろうな。
なんて思ってたら、思わず笑いが込み上げた。
「…?」
思わずにやけた俺を不審に思ったのか、隣のアナウンサーさんが実況しながら横を向いて俺の顔を不思議そうに覗き見る。
慌ててジェスチャーで何でもない、と示すと、こんな時まで思い出す自分に大概だなとごちりながら、気持ちを仕切り直して目の前の光景に心を戻す。
6年後は、自分たちの生まれ育った国で同じ感動を共に感じているだろうか。同じ景色を見れているかな。
今進行形で行われているものを見ながら、未来に想いを馳せた。
中継と取材を終えてホテルに戻る。
さっきまでの余韻に浸りながらシャワーを浴びる。ふわふわと、何だか浮き足だった気分だ。
バスルームから出て、ミネラルウォーターを片手に備え付けのチェアーに腰を下ろす。
感動が醒めないうちに、取材や結果などをまとめようとバッグを探る。
取り出した、使い慣れたペンケース。
思わずこんなところまで連れて来ちゃったな、とギュッと握ると、『付いてきちゃった』とはにかむ潤の顔が浮かんだ。
自分の言葉で伝えるため、自分でしか伝えられないことを伝えるため、ペンを走らせ、キーボードを叩く。
書いては消して、リライトして。
楽しみにしていてくれているファン、メンバー、そして潤のため。
そう思うと移動のハードさや、睡眠時間の短さなんてなんてことない。
いつでもその存在が糧となり、俺を高めてくれるんだ。
「……ふう、」
何とかまとめてベッドへ潜り込む。
…日本とは時差、どのくらいだっけ?
急に声が聞きたくなってスマホを手にとるが、ドラマの撮影が連日立て込んでいるのを知っているから、結局迷ってアドレスを呼び出すのを止めた。
あれ?
メール受信してる。
『翔くん体調大丈夫?俺は今休憩中だよ〜。
無理しないで頑張ってね!じゃ、俺も行ってきます!(^o^)』
いつもより短い、急いで打ったであろうことが窺えるメールの文面に、また顔がにやける。
何て返信してやろうかな?
忙しく働いてるその姿を思い浮かべながら、また、自分でしか伝えられない言葉を紡ぎ出した。
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