白いお姫様と王子様

□第弐章
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「さて、どないしよ」


「何が?」



「服や服!!雪ちゃんの服、いつまでもあのままでええわけないやん」


「あ、そっかぁ」







納得、といった様子で頷く十束。

草薙はそんな十束に呆れた視線を送る。






『すみません…』


「何でお前が謝んだよ」


『え、いや…私の服のことのせいで…すみません』







雪がそう言えば、八田は溜め息を吐く。







「まずはその謝り癖と、何でも自分のせいにすんのやめろよ。

身が保たなくなるぞ?」


『!!………ありがとうございます』







雪がそう言って優しく微笑めば、その場の全員が顔を少し赤らめて、目を見開く。


雪は、熱でもあるのかと不安になり、狼狽える。








『ぁ、あの……大丈夫ですか?

顔が…赤いですけど…』







雪が心配して訊けば、一同は我に返り、何でもないと主張する。








『良かったぁ…』








そう言って、再び優しく微笑えむ雪を見て、一同が思ったことはただ一つ。



"この子は鈍感だ"








『?』





─────────────

「これと…あとこれ!あ、これも合うよ!!」


『ぇ、えと…あの…』









取り敢えず、服を買いに行くことになった一同。


取り敢えず3、4着買おうとデパートに着たのだが、十束があれも似合うこれも似合うと言って、中々決まらないのだ。


目の前に次々と積まれていく可愛らしい洋服に、雪は思わず苦笑いを浮かべる。


周りを見れば、十束とアンナ以外も苦笑いを浮かべていた。

因みに一緒に来たのは、十束、アンナ、草薙、八田、鎌本である。

周防と他のメンバーは、バーで留守番。







「うーん…迷っちゃうなぁ。
雪ちゃんはどれがいい?」


『え!?えーと…その…』


「こら十束。
そんなに大量の中から選ぶんは、大変やろ。

もう少し減らさんか。一体何着持ってきとんねん」


「えぇーっ!!
だって、雪ちゃん可愛いからさ。何でも似合うじゃん?
俺、迷っちゃうよ」


「お前が迷ってどないすんねん。

まあ、可愛ええっちゅうんは同意やけどな」







そんなことを恥ずかし気もなく、サラッと言いのける2人に、雪は思わず頬を赤く染める。









「雪、可愛い…」


『えぇっ!?』








アンナまでそんなことを言うので、雪の頬は更に赤みを帯びる。



アンナ以外はそんな雪の様子を見て、そう言う顔も可愛いんだけどな、と思う。








「とにかく、しゃあないわ。

俺らで選ぶで。
八田ちゃんと鎌本も手伝い。アンナも、手伝ってくれるか?」









草薙の言葉に2人は返事を返し、アンナはコクリと頷く。



それから一時間ほど、六人で選び続けて、やっとの思いで服を買い終えた。



終わった時、草薙達が疲れていたことは、言うまでもない。








──────────────


「ほな、シャワー浴びてき」


『はい。ありがとうございます』








Bar.HOMRAに帰るなりそう言う草薙に、雪は頷き、先程教えてもらったシャワー室へ向かう。



脱衣所に入った雪は、着ていた服を脱ぎシャワー室に入った。


蛇口を捻れば、温かいお湯が流れてくる。


そしてそれと同時に、ふと母のことが脳裏に浮かぶ。



逃げるために、家に置いてきてしまった母。


今、家はどうなっているのだろうか。

警察は来ているのだろうか。

母はどうなっているのだろうか。



考え出せば止まらない。


今まで心の中に閉じ込めていたモヤモヤが、まるで心のダムが決壊したかのように溢れ出す。








『お母さん……』











一方、バーでは……



「雪ちゃん、どうするのかな?」


「何がッスか?」



「家に、戻るのかな?」



「何でッスか十束さん!!
アイツは、ここに住むんじゃぁ…」








十束の疑問に対し、少し焦りを見せる八田。


そんな八田を呆れた目で見ながら、草薙が口を開く。








「せやないで、八田ちゃん。
十束が言っとるんは、家に残してきたお母さんのことや」


「あ…」


「八田さん、焦りすぎッスよ。
もしかして、ひとめって、八田さん!?

すいません!!すいません!!
謝りますから、その振り上げた拳を抑えて下さい!!」


「いーや、殴る。一発殴んねえと、気が収まらねえ」


「そ、そんなぁ…」






必死で八田を止めようとする鎌本だが、八田が止まる様子はない。


草薙や十束に助けを求めるが、ニッコリ笑顔で見捨てられた。



そして今まさに、鎌本の頭に八田の拳が振り下ろされようとした、その時。








『え……どうか、なさったんですか?』








鎌本にとっての、救世主が現れた。


八田は、雪を見るなり顔を赤くし、拳を収めた。


その様子にホッと胸を撫で下ろす鎌本。


心の中で、雪に感謝。








「何でもあらへんよ?いつもの喧嘩や。
それにしても、やっぱり似合うとるな」



「やっぱり、雪ちゃんは何来ても可愛いね〜」








またもやサラッと言いのける2人に、雪は顔を赤くして俯く。


その様子を見てアンナは心配になったのか、雪の服の裾を引っ張り、「大丈夫?」と訊く。


それを聞いた雪は、アンナの背にあわせてかがみ、頭を優しく撫でた。








『大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、アンナちゃん。
アンナちゃんは優しいね』








雪がそう言えば、アンナは嬉しそうに微笑んだ。


一部始終を見ていたメンバーは、驚く。


昨晩会ったばかりの少女に、アンナがこれほどまでに懐いているからだ。



一同は驚きつつも、その微笑ましい光景を、暫く優しい眼差しで見守っていた。
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