シングル

□泣かないっ子宣言
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泣かないって決めている。加入から憧れで、大好きで。





最高の先輩の、最後の舞台で。













カレンダーを見ながら、田中さんが何気なく呟いた。




「あと3日やね〜。」



ぎゃいぎゃいしてた楽屋がしんとした雰囲気に包まれる。


拒み続けることはできないことは、全員が知ってるんだ。



じわじわ目に涙が浮かぶまーちゃん。
つられ始めるはるなん。




九期さんもなんとなく神妙な顔つきで。



田中れいな、その人の存在を噛み締めて楽しんできたツアーも、終わってしまった。






後は、ほんとに…









「っ…!






ハル、飲み物買ってくんね。」





急に立ち上がったハルを、みんな少しビックリ見た。




「あ、時間……気を付けてね、工藤。」




道重さんの言葉にうなずくかうなずかないかの微妙な返事を返して、楽屋からでる。



ちょっとだけ小走りに、自販機とイスがある場所を目指す。








あぁ、まずいな。
時間、守れるかな…。




一人座っていろんなことが思いだされる。






「たな、か…ざん…。」








今だけだ。
今だけだから。







涙があふれてきてて、誰か来るのにも全然気づかなかった。










「……工藤?」




「………っ。」




ヤバイ、今、来てほしくない人が来てしまった。




滲んだ世界で、田中さんの靴が少しだけ見える。








そこにいるんだ。
不安があって、これから巣立っ
ていく先輩が泣いてないのに。





泣いてる自分が情けない。







「となり、よか?」




そんなことをされてはまずいとブンブン頭を振って拒否を示してみる。
そんなことしても、無駄だろうけど。







案の定ぽふっ、と隣で空気がつぶれる音がする。








こんな自分を、田中さんはどう見てるんだろう。




なにか言わなきゃ。

伝えなきゃ。






頑張りますって、田中さんの分までって。








引き継いでいきますって……




言葉にならない原稿を、思い付いてはまた消して。
何度も何度も考えて。



それでも、何て切り出せばいいかわからなくて。






ブーンと自動販売機が鳴り出し
て、強調された沈黙を。








田中さんが破る。






「あのさ、工藤……。」




はい、と声にならない声を絞り出す。




大好きな声が、ハルの耳に響く。








「いまさ…ちょっとだけ、泣きたい気分やけん。






だから、泣いていい?」




「えっ…」







…泣きたい、気分?





「本当ですか……?」







「ちょっとつられちゃったみたいやね〜……






まあ、わからんけど








……うん、寂しいんかな、ちょっとだけ。」






まるで時間が戻ったみたいな感覚に襲われた。




目の前にいるのは確かに田中さんなんだけど、まるで加入当時の、ハルたちとあんまり年が変わらないみたいな笑顔。






泣かせて、あげよう。






後輩として、先輩を。




グシグシと目をぬぐい、田中さんを見る。





「……いいですよ。

田中さん。」








パッと腕を広げると、すっぽり入ってくるちっちゃい先輩。


柔らかくて小さい。









でも、ん〜…









ん〜あゆみんより大きいのかなって瞬時に思ったら、少し不満げに田中さんが顔をあげた。




「ん〜…?、いま工藤れな以外のこと考えたやろー!

この浮気もん!」



「えっ!! いや、そ、そんな!!」






自然と上目遣いになる、二人の身長差。
ぷうっと膨らんだ、すべすべほっぺの田中さん。





さっきまで悲しい気分だったのに、少し笑いが込み上げてきた。




「ちょ、まーちゃんみたいっすよ、田中さん。」





「えー!? 佐藤みたいなんはイヤ!



やめてよ工藤ー。」



「なはははは、いーじゃないですか!

そういう田中さんも新鮮で。」






えーってまだ不満そうだけど、ふぅと息をついて






「……ま、よか。

工藤笑ってくれたし。」




にししって笑って、おでこをハルの胸に押し付けてきて、




ぎゅーっと、もう一回抱き締められた。






バックバクいってる心臓を素知らぬフリして、ハルからも抱き締め返す。







突然叫ぶ、田中さん。







「あぁーっ!




さみしいよー工藤ー!」







なにか言う変わりに、もう一度力を腕に加える。








「さみしいよぉ…。」





小さく震え始めた田中さん。




ハルは、考えてもまとまらない言葉たちを、そのまま伝えた。







「大丈夫ですって。さいきょーですよ、田中さんは。







負けませんよ、誰にだって。








なんかあったら…」










ハルが絶対守りますよ!!







って、言いたかったけど、







言えなかった。








唇が、塞がれてしまったから。











「にしし、ありがと。




なんか、頑張れそう。」












いや、あの…









「たなかさ…「あ〜…






…今のれなの気持ちは、工藤が大人になってまだれなのこと大好きやったら…






その時に、返事聞かせてね。」







もうかっこよくて、かわいい、大好きな田中さん。






てってってと走っていってしまった田中さん。









結局時間が過ぎるまでさっきのキスを忘れられなくって、道重さんとマネージャーさんにこってり起こられた。






チラッと田中さんを見たら、口パクでばーかって言われた。


あーーっ!! もうっ!!






決めた!!



絶対泣かねー!!

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