シングル

□黄昏の温もり
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ハルは、今忘れ物をした。

楽屋だからよかったと思ったけど。





入ったら泣いてる声が聞こえたから、戸惑ってしまってるんだ。



膝を抱えて、もとから小さいくせにさらに小さくなってる、あゆみ。







なんかあったんだ…。

チラッともこっちを見ない。


誰か来たのは気づいてると思う。
誰が来たのかはわからないと思う。


だから、怪しい人だと思われないように、なるべく優しい声で名前を呼んでみた。

「…あゆみ?

もうそろそろ暗くなっちゃうよ。」







「………うん。」

弱々しく返事が帰ってきて。

そっと、ハルは忘れ物を取りに行く。


確か机の〜、おっ、あったあった。

つかんで、強引にポケットに突っ込む。






西日が差し込む部屋が、ハルの大好きなオレンジ色にだんだん変わってきてて。


じんわり、暖かさと寒さが混じるようなこの空間のせいなのか

それとも、自分の気持ちのまま、からだが勝手に動いたかはわかんない。






だけど、とりあえずあゆみの隣に座った。
そして、小さい背中をそっとさする。




温かさが、手を伝わる。
あゆみに何があったかはわかんない。
ハルはハルだし。それがわかんのはあゆみだけだけど。




でもハルは、いっぱい、いーっぱい「大丈夫だよ」って気持ちを手にのせる。





元気になーれ、元気になーれ。

落ち込んでるかおなんて、全然似合わないよ、あゆみには。







「くどぅー…。」


まだまだ、涙声みたいな、頼りない声。







「…なに?」


笑って、あゆみ。






「もうちょっとだけ、そうしててくれる…?」

ハル、あゆみの笑顔大好きだから。






「…うん、いいよ。」





ずっと、いるよ。




元気になーれ、元気になーれ。






ハルの好きな人が、好きな人と、ずっと笑っていられますように。

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