シングル

□ココロの悪魔
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「ぷっくく…」

寝ている天使の美しさを、メモ帳に模写する。

なーんて。
天使というにはあまりにアグレッシブ過ぎるよ、この子は。

奥二重な目も、閉じてしまえば関係なく一本の線になる。

純日本風で、和服なんかが似合いそうなこの子は今は黄色いドレスのお姫様。

なーんか、書きやすいんだよね。





「くっ…ひひひ。」

ヤバい、結構似てるかも。
なんでこういうこっそりやることって楽しいのかな。

みんながみんな、思い思いに過ごして騒がしい楽屋の音を子守唄におやすみ中の眠り姫。






静寂と安心のこの時間を、








ぶち壊すのはいつだって、少しハスキーな王子さまなんだ。











「さやしさーん!」

大きい元気な声に、一瞬びくっとからだが震えて、ぽやーっと目が開いた里保ちゃん。

「あー、香音ちゃん、おはよ…










あれ…遥は?」








ずきっ…






思わず出てきた、二人の呼び方。
不意に撃たれた、秘密の弾丸。








「ちょっ…!鞘師さんっ!」

「ふぐ。」

後ろから王子さまことくどぅーが真っ赤な顔して里保ちゃんの口を塞ぐ。
すると、意識がだんだんはっきりしてきたお姫様もみるみる顔が紅くなってバタバタ暴れだした。

「…っは! もうっ!ばか!」
「バカじゃないですよっ!」







どこか笑顔で、どこか楽しそうで、幸せそうで…






二人の視線に、「あたし」はいないんだ。

寝顔を描くみたいにこっそりと、この幸せを打ち崩してしまうことは楽しいのかな、なんて。









メモ帳の中の天使は出来もしない、叶うこともない、小さい望みを祈るあたしを













少しだけ、悲しそうに見ていた。

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