シングル
□素直になれない
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生鞘
ある日の楽屋
プイ、と不機嫌そうに頬を膨らませてる、あるメンバー
「あのね、里保。」
その前に私、生田衣梨奈こと生田衣梨奈がいます。
つーん…と相当怒っとお。
まさに蛸師状態
「何であんなこと言ったと?」
あんなこと、とは。
もうみんなは見てくれたっちゃろ? あのハロステの、あるシーン。
“ポンポンコンビはビジネスポンポンなんです”
……はぁ。
「ファンの人の心理的に、別に裏でケンカしてよーがビジネスだろーがカメラの前で仲良さげなら別に気にせんとよ?
それをわざわざビジネスとか…なん?大体聖とのビジネスはもう大分前に解消されたけん、ええやろ?」
それでもまだ明後日の方向みとー、まったく…
「別に。
ビジネスをビジネスっていって何が悪いの。
ファンの人に嘘つくなんてサイテーじゃん。」
「嘘も方便、やろ。」
「つかないに越したことはないでしょ。」
…
めんどくさっ。
めんどく鞘師。
「ちょ、こっち見ぃよ。」
とりあえず目と目を見て話せんと。
それでもかたくなにガン無視を決め込んでて。
あーあーさすが次世代エースですね、なんて皮肉も浮かんできて、
回りもなんかはらはらそわそわしてる感じで
もう里保なんか知らん!
そんな台詞が、喉元まで出かかったときだった。
「……っ
……!?
里保…、泣いてる?」
小さい嗚咽をしてる気がして
からだが小刻みに震えてる気がして
未来のエースでも、まだ中学生でしかない少女がそこにいた。
「別に…ポンポンがビジネスでも、どうでも、
どうでも…いいもん。」
チク、とちっちゃい棘が、胸に刺さる。
この声になっていない悲鳴がからだ全体に現れている気がして
小さな後ろ姿にそっと近づき、抱きしめる。
ドクン、ドクンという鼓動が、衣梨奈にも共鳴する、少し早くなってきてるみたい。
意地っ張りで、頑固で、くそ真面目なこの子は自分のメッセージを飲み込んでしまうから
「里保…
嘘をつかないに越したことはないんやろ?」
だから、自分に嘘つかんでもいいとよ。
そういうと里保は、自分の手の甲を目に押し当てて小さく
“ごめん、でも…”
と呟いた。
今度は、衣梨奈の心拍数が上がる番みたい。