新ハヤテのごとくSS
□最後に君に会いたかった
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翌日
「アテネ朝食いらないのか?」
「…いらないわ」
「そうか」
そう言い残しマキナは部屋を立ち去った
マキナには悪いと思いながらアテネはとても食事する気分にはなれなかった
(あの時聞こえたあの声、英霊はもう私の中にはいない)
(おそらくここ最近の記憶がなかったのはあの英霊に操られていたから
そして誰かがそれを倒してくれた)
精神的に弱っているとはいえさすが頭脳明晰なアテネ。既にだいたいの状況を把握していた
(わずかに覚えている…あの光輝く翼を
そして西洋鎧を身につけた女性…あれは)
ヴァルキリーの換魂の術のほんの一瞬の時。アテネはわずかに意識があったのだ
「あれはまさかワルキューレ。北欧神話の…でもなぜ?」
アテネには聞いたことがあった。神々が魂を冒涜する存在と人知れず戦っているという話を
「じゃあ私の魂を取り込もうとしたキングミダスを滅ぼすためここに」
(でもなぜ…なぜ私はこんなに悲しいの?なぜ、こんなにもハヤテの事が頭に浮かぶの?)
原因のわからない喪失感と悲しみはアテネの心が痛む
涙を流しながらアテネは日本帰ってハヤテの消息を調べる決意をした
数日後、日本の白皇学院の
旧校舎裏庭
「天王州さん今日もここにいたの…」
「……」
「お願い元気を取り戻して!今のあなたとても頼りないほど弱々しいわ!
幼なじみが亡くなっていて、つらいのはわかるけどこのままじゃ天王州さんあなたまで体を壊してしまうわ!」
ヒナギクはアテネが心配だった
あの日怒らせて以来学校に来なかったアテネがひさしぶりに学校に来て、あの日の事を謝ろうとしたヒナギクだったが
そのアテネのあまりの雰囲気に言葉を失った
普段の凛とした大人びた雰囲気は微塵もなく、まるで親の帰りを待つ幼子、夫に先立たれた妻のような儚さ不安定さが出ていた
それから元気づけようとヒナギクは毎日声をかけているが
「心配してくれてありがとう桂さん…でもそっとしておいて…お願いですから」
「…わかったわ。でも何かあったら必ずいってね。力になるから」
「ええ…」コク
アテネの心は晴れる気配を見せなかった
まさか「死んだ人は二度と会えないのよ」とか「そんな悲しんでいるとその綾崎君が浮かばれないわよ」など無責任ことは心優しいヒナギクには言えない
ヒナギクは友達の心を救えない自分自身を悔しく思いながら静かにこの場を去った
ハヤテの死を知った
日からアテネはロイヤルガーデンのあった森を見つめるばかり
その後ろ姿は海に漁に出て二度と帰って来ない夫を海辺で待つ妻のようにだった
「ハヤテ…あなた親に売られそうになったんですてね…ほんとバカな子ね…私があれだけ忠告したのに……」
今にも消えそうなほど覇気のない声で悪態をつくアテネ。それが強がりで言ったセリフだと物語っていた
「あなた近くの高校通っていたのね…こんなに近くにいたなんて…」
「せめて…もう少し早くあなたを見つけることができていれば…あの時私があんなひどいこと言わなければ…」
必死に感情を抑えようとするアテネだが、体も声も震え初め徐々に漏れ出した
「親しく名前呼び合う関係でいることができたかもしれないわね……」
(そして、死なせずにすんだかもしれない)
アテネの心から溢れる感情
闇より深い後悔、悲しみ、喪失感、そして絶望
やがてアテネは立っている気力さえなくなり、その場で座り込んでしまう
抑えてきた感情がアテネの自制心を破壊し、アテネは泣き崩れしまう
「お願い!もう一度………もう一度私の名を呼んでよ!ハヤテ…」
静まりきった裏庭でアテネ慟哭がいつまでも響くのだった