咲降る日、急く

□命を奪いに参ります
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―シュッ!シュ!

「…!」

季朱の耳に何やら剣が風を切るような音が入ってきた。

季朱は眼鏡を上げ、窓から外を見る。

剣を振り回し、修業をしている人は予想通り春夏秋冬であった。

何度見ても切れのある動きで眼は真剣である。

春夏秋冬と剣は一心同体みたいに感じる。

季朱は暫く見ていた。

やがて―春夏秋冬が季朱を見た。季朱はドキッとして慌てて去ろうとしたが、春夏秋冬の声で立ち止まる。


「こちらにいらしてください、季朱」









季朱は渋々外に出て春夏秋冬の七歩手前で立ち止まる。春夏秋冬は明るい表情で、

「剣を扱ってみますか?」

と言った。

季朱は益々春夏秋冬が分からなくなった。

―私に剣を持たせて、私がお前を攻撃しないと思うか?

考えなしにもほどがあるだろう。

季朱はあきれた。

しかし春夏秋冬は近付き、そして剣を差し出す。

「持ってみてください」

季朱はちらりと春夏秋冬を見上げ、そしてゆっくりと両手を差し出す。

春夏秋冬は剣を季朱に持たせた。

―!

「…なっ」

季朱は目を見開く。

「では季朱」

春夏秋冬はさっと季朱から距離を取り、そして言った。

「鬼ごっこをしましょう。鬼は私。季朱はその剣を持って逃げてください」

「っ!こんな重い剣を持てってか!!」

普通より重い剣に、よくお前の腕は細くいられるなと考える季朱など春夏秋冬は気にしない。

「いいですか。捕まったら死にますよ。捕まらないように剣を使いながら逃げてくださいね」

春夏秋冬の言葉など呑み込めない季朱。

「…死ぬ…?」

「ええ」

春夏秋冬はにこりと笑う。

「命を奪いに参りますね…鬼ですから」
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