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□水仙のような
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「少し、音を外したわね」
茶色い綺麗な髪が揺れ、結衣は琴を弾き終えそう呟いた。
「そうでしたか?私には完璧に思えたのですが…」
伸子はそう言うと、結衣は、
「伸子は音楽に疎いから、分からなかったのね」
天使のように微笑みながらも、どこか棘のある言葉を言った。
伸子はそうなのですか…と言った後で、他にいい言葉はなかったかと、自己嫌悪に陥った。
私は不器用だ。これは伸子が昔から自覚している自分の性格。
気の利いた行動もできないから、同僚からは少し鬱陶しがられる。
自分は由緒ある家に仕えている身なのだから、変わらなくてはと奮闘しているが、皿を割っては怒られ、動きが鈍いと言われる。
伸子は自分が嫌いだった。
横を見れば仕えているお嬢様、結衣の煌びやかな振る舞いが眩しい。
身分は違うけれど、同じ女として虚しくなる。
容姿もそうだった。
結衣はとても美しく、伸子は結衣の横に立つのが恥ずかしかった。