インゴがまた別の女と歩いていた、と君から泣きそうな声で電話がかかってきたと思ったら、すでに自分の体は、足は、彼女の家へと向かっていた。慰めて欲しいのか、それももうお決まりのようになってしまった
きっと君はそんな気はこれっぽっちもないんだろう、"男友達"としてのボクだけを求めてこうしてやりようのない、行き場のない感情をボクに吐き出す。家に上がって早々、君から抱きついてきた時には心臓がどくり、と大きく跳ねた。何もボクに抱いてくれ、と言っているわけでもないのに。いまのままだと誰かといないと壊れてしまう、きっと彼女の心が砕けそうなくらい寂しいだけ

「………」

軽く覆い被さるようにしてとんっ、と君の顔の横へ腕をつく。潤んだ瞳は怯えたような驚いたような色に変わる。そんな顔が可愛らしくも憎らしくも思えた。彼女にとってボクは慰めるだけの拠り所なのかもしれない。或いは孤独をまぎらわすための存在。君の泣いた顔も見てきたし、辛そうな顔も見てきた。それなりに彼女の色々な面を見てきたつもりではある。君の支えになればいい、それでもいいと思ってきた。君の笑顔が見れる事、それがボクの幸せだと。

「……エメット?」

名前を呼ばれてふと我にかえる。時間にすればほんの僅かな間の沈黙だったのか、それでもボクにとっては随分長いようにも思えた。それにインゴは死ぬほど君を愛しく思っている、妬かせて、妬ませて、自分だけのことを考えるように仕向けているだけ。片割れの考えなんてお見通しだけど、ボクがこうやって君と家にいるのは、知らない。壁に腕をついたままそう、思案する。さて、この後どうするか。このまま壁際に追い詰めて怯えた顔を見るのも楽しいし、良いかもしれない。でもそんなことをしたらボクは……

「ゴメンネ、何でもナイ」

その場を取り繕うように軽く笑って受け流す。そうだ、いつも通りに笑っていればいい。真っ白な服を着たボクのなかで渦巻くどす黒いもの隠すように。不思議そうな顔で見上げる君に、何も知られずに。悟られないように。目線を合わせずとも無垢な瞳が自分をじっと見つめてくるのがわかった。力を入れすぎたのか、少し腕が痺れ始めてきた。エメットは彼女の頭をもう片手で軽く撫で、名残惜しそうに腕をそっと壁から離した






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