It's a small world

□宇宙人
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僕は初めて家の門限を破った。





時刻は6時をとっくに過ぎていたが、友達の勇也と2人で町の高台までやってきた。既に暗くなり始めた重たい空を見上げてみると、1つ、2つと星の光るのが目に入る。あれが何座かも知らないし、1番星見いつけたとはしゃぎもしなかったが、僕と勇也はただひたすらに空を見た。

「宇宙人っているのかな。」

中学生にもなって何を言ってるのかと疑われてもおかしくはないが、仕方ない。気になるのだから。
別に、この広い大宇宙に興味をそそられるわけでも、まして宇宙人を捕まえようなんて物騒な考えも今のところは持ち合わせてはいなかった。
何の気なしに聞いた質問だったが、勇也は耳にかかった髪をくりくりといじりながら真剣に問の答えを探り始めた。考え事や悩み事をすると髪をいじるのは、彼の小さい頃からの癖だった。どうやら答えを聞くまで当分間があるなと、僕はひとまず芝の上に寝そべることにした。
目に映るのは空だけだった。空には先刻よりも暗いカーテンがひかれ、より多くの星が光り輝いている。
あの空の向こうには、何人の宇宙人がいるのだろう。そもそも何人と数えても良いものなのだろうか。きっと、大きな力を持っているに違いない。たとえば、隣の席で化粧ばっかりしている女子のポーチを消してやったり、通学路で僕にばかりほえてくる犬の口にチャックをつけてやることも容易い。思わず口元がにやけてしまうのを隠しもせず宇宙人妄想に耽っていると、勇也がようやく口を開いた。もう髪はいじっていなかった。


「僕らだって、宇宙人じゃないか」



ああ。
そうだ。
そうかもしれない。
どうしてだか、僕は彼の言葉がすぐに理解できた。理解できたと言うよりも、腑に落ちたといった方が正しい。
地球に暮らす、人間と呼ばれる生き物だってれっきとした宇宙人ということなのだろう。しかし、それだと僕も勇也も宇宙人ということになってしまう。そうなってしまうと、さっきまでの僕の壮大な妄想は一体どこにしまえばいいのか。行き場のない宇宙人論を頭の中で行ったり来たりさせたが、ひとまずあの暗いカーテンの向こう側にしまっておくことに決めた。取り出す日はもう来ないと思うが。
大きく溜息をつき、僕はのそりと立ち上がった。町にはビルや街灯の光が無数に散らばっている。頭上に輝く星の美しさを思い出し、同時に懐かしく思えた。

「なあ」

僕は言った。

「ん?」

勇也の顔がこちらに向いた。



「宇宙人にも、門限てあるんだな。」

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