魔立干支学園 入口

□第二章 〜存在〜
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定期的に行われている、本国である日本政府との議会は、各校の代表たちが参加する。代表は長でも良ければ又、長が信頼を置く人間であっても良い。ただ、情報交換の場を政府側に提供すれば済む。
だからこそ、多くの学校は長が直接参加することはあまり多くはなく、代わりに側近や宰相等が議会の場に行くことが主流となっている。なので我が魔立干支学園は補佐官に加え、長である王自らが出席するというのは、とても珍しい事例だった。
月に一度行われるこの情報会は、毎回主題となっているものが変化する。例えば先月は、各学校それぞれがどのような魔力を特色としているのかを述べるというような内容であった。
しかしこれはあくまで公の場。他校と敵対している国同士は、あまり詳しい情報を伝えたがらない。実際の詳細は報告書によって、本国へと提出されているのが実情である。
ならば何故このような場を設けるのか。それは、各校の戦闘意欲を政府側が揺さぶるためということ意外に他ならない。
互いを競わせ、劣る者は間引きしていき、残った者たちを日本国の兵器として使っていく。恐らく、そのつもりなのだろう。
本月も、この陰謀渦巻く議会は開催されつい先程閉幕した。今回は専ら、我が学園へ完全に意識が向けられた話し合いであったが──

「……疲れた」
「あー。ったく、あの糞狸ども……本当に苛々するぜ」

ケンキの愚痴が、流れる風音に吸い込まれていく。目の周りを覆う、樹脂を合成した透明のゴーグル越しには、意外と広い紺色の背中が広がっていた。
魔力を根源としたこのバイクは、魔導核と呼ばれる物質により、走行を可能としている代物である。この核は我が校独自に生みだした機構の一つであったが、今ではどの小国でも使われるほど一般主流となりつつあった。
整備された車道の両脇には広大な草原が広がっており、田畑を耕す人や放牧を行う人たちの姿が、視界をどんどん流れて行く。
見渡す場所全てが護るべき土地であると考えると、僅かに心臓が痛い。自分の立場が重責だということを、改めて実感させられている気がするのだ。

「たーまさん」
「……なんだ」
「なに考えてんだよ」
「……別に何も」

嘘つけ、と不貞腐れたように言葉を吐きしたケンキに微笑するが、決して声には出さない。きっと、こいつには全てお見通しだろうが。


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