大家Bの書庫

□桜咲く一年生〜寂しがり屋な彼の場合〜
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あれはまだ桜の木に花も葉もついていない頃だっただろうか。

オレが受験した高校は自分の学力に合っていたし、試験勉強も毎日必死になってやるほどでもなかった。

ちなみに一年先に高校生になった、ももちとれんれんの二人は自分達の通う高校の資料を持ってきてくれたんだけど……オレが受験したのはそこじゃない。

自転車でも通える範囲というのは近くていいんだけれど、生憎オレは、れんれんのように何でも勉強できるわけでもないし、ももちのようにスポーツ万能でもないから。
勉強を頑張れば合格も夢じゃなかったかもしれないけど、そこまで一生懸命やる気にもなれなかった。

だから偶々ミーロンが持ってきた電車で通える範囲の高校の資料から、今の自分に合ったレベルで、着てみたい制服とか、行事内容とか見て選んだ。


「ねぇねぇ、皆聞いて〜!ロップさん、無事に高校受かりました〜!」


それでもまぁ、多少は緊張していたわけだから、その糸が切れた日には、いつものようにお喋りをしたいだけした。

皆の「おめでとう」を聞けば、ようやく実感したのか、嬉しくなる。
優しくて温かい言葉をかけてもらい、本当にここに入居して良かったと思えた。


何より、受験シーズンでも変わらない彼等がいたから、落ち着けたのだ。


中学三年生――受験生になってからの、周りの友達の急な変化は、なんだか寂しかった。

つい数ヶ月前までは毎日放課後遊んでいたような人間が、急に毎日成績だとか塾だとか言いはじめる様子を見て


(人って変わろうと思えば、いつだって一瞬で変わってしまえるんだ)


そんな風に思ったのだ。


向上心が無いわけじゃない。ただ、変わらないでいたい部分があっただけ。





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