大家Cの書庫
□A chef's taste
1ページ/2ページ
目の前に広げられたのは、試作品だというコックお手製の料理たち。食欲のそそられる色合いに、匂い。
クラリと湯気が立つカボチャのスープ。一口すくって飲めば、甘味が口内に溶けていく。
そんなに食に煩くないももちだとしても、この品々がどんなに美味しいものなのか理解できるくらいどうやら美味しいようだ。
感極まったように小さく溜め息を吐き、いつも通り吸い込むようにフォークやスプーンを進め食べ出したももちを見て、向かいに座ったコックであるマルボロが苦笑いを溢す。
これまでもこうして住人の多くに試食をしてもらってきたが、ここまで美味しそうに平らげる人物をマルボロは知らない。
客に接していて賛辞の言葉を貰ったとしても、それを世辞として受け取ってしまう根性の捻くれた自分としては、こういったように見て分かる仕草がどうしようもなく嬉しい。
当たり前のようにタバコを燻らせるコックを、僅かに目線を上げてももちは盗み見る。
こんなに美味しいモノを食べさせてもらえて、尚且つここに居られる。二重の幸せがももちの心に優しい重圧をかけていた。
この世には心に抱える重圧を理解することに疎い人間と、むしろ鋭い人間とが居る。そしてその鈍さまたは鋭さが、自分の心の重圧に対して向けられる場合と、他人の心の重圧に対して向けられる場合…そして、その双方のに向けられる場合とがある。
痛い、苦しい。この気持ちはなんだろう?などとよく少女漫画などでは描かれているが、実際はとても重たくてドロドロしたものだ。
あっという間に平らげた食事。テーブルの上には、キレイに空となった様々な形の皿が数枚。その全てのメニューを頭の中で振り返りながら、ももちはグラスに注がれたスッキリとした味のバナナオレを口に含む。
(さて、どう云うかなぁ…)
季節の野菜のパスタは、もう少し麺を茹でる時の塩を普段より薄味にした方が良いと感じた。今回はそれ以外特に気になる点は全くと云っていいほどなかったのだが…ももちを悩ませているのは、その点ではない。
テーブルに肘をついて、空き皿を片付け始めたマルボロへももちは視線を向ける。
歳の差はどれくらいだっただろうか。まだ高校生の分際である自分を、彼はどう思っているのだろうか。脳内を占める葛藤に、ももちは呆れて溜め息を吐く。
正直、周囲には向こう見ずで無鉄砲だと思われているかもしれないが、何も考えず突っ走っているわけではない。なぜならももち自身、勝てない戦はしないタイプなのだ。
だからこそ、マルボロに少し言葉遊びに付き合ってもらいたい。
テーブルの上を片付け終え再び席に戻って来た金髪が、視線だけで料理の感想を催促している。
→