大家Cの書庫
□砂糖を吐くような甘い話が作りたい
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1月末日。学校が自由登校となった。何もやることがなくて、いつの間にか日が暮れてまた朝が来るような毎日が過ぎている。
〜細い指が描く (子×寅)〜
正直普段から勉強はやっていたし、受験が迫って来ても推薦をもらっていたからまったく焦りはなかった。…そんなこと云ったら周囲のヤツらに視線で射殺されるから決して云ったことはないが。
高3になってから、成績を後悔する人は多い。推薦取れちゃえば、こんなにも楽なのに。つまり、高校3年間真面目に勉学に励んできたことは全く間違いではなかったということだ。
しかし、ふっと自分にはやりたいことがないことに気づいた。自分の学力に見合う大学を選んだが、だからといってやりたいことがあるからという理由ではない。
ただ教師に、ここに行っておいた方が良い。きっと就職する時に大いに役立つから…と云われたから進路を決定しただけ。
そこに自分の意志は全くない。
今まで何も不思議に感じたことはなかったが、長期休みという期間が出来た今だからこそ気が抜けた代わりに抜けていた別のモノを思い出せたのだろう。
暖かな午後。うつ伏せの身体を大きく伸ばし、炬燵の中でだらしなくグダグダする。
騒がしい同級の申も大学に推薦が決定したらしく、いつも以上に自由奔放な振る舞いをしている。…いつもよりリキとのケンカも2割増し。うるさいことこの上ない。
ふっ、と息を吐き欠伸を噛みしめる。昼寝でもしようか…。
そう考えていた思考を遮るように、不意に下半身から悪寒が走る。
「ぬかったのぉ!」
「うぉっ!」
どこで覚えてきたのか、まるでどこぞの武将のような口調が炬燵内から聞こえ慌てて中に手を突っ込み、小さな手を探り当て引っ張り出す。
ひょっこり出てきたのは、見知りすぎている青色の髪と大きな耳。そして変態丸出しのニヤケ顔。
「なんだよー…」
「そりゃオレのセリフだっつの!いつもいつもいつも…」
そうなのだ。この純粋無垢なはずの子どもは、いつからか変態と化してしまったのだ。
悪い薬でも飲まされたのか、隙あらばオレのケツに張り付いて離れようとしない。…そして何故かずっと撫でまわされるという、警察も驚きのセクハラを日夜堂々と繰り返す。
「あぁ…オレ警察になろうかな。…いや、政治家か…」
「どうしたの?急に」
「お前を取り締まる為にはどうしたら良いのか考えてんだよ」
ふーんと興味なさげに云ったちゅー太はオレの横に完全に身体を落ちつけ、うつ伏せのまま頬杖をついた。
なんとなくムッとしたが、相手は子どもなのでその感情は表には出さずに消化する。
それより、自分のことだ。自分の未来のことを真剣に考えなければ。
「レン兄はさ、将来何になりたいの?」
「え…?」
あまりにもタイムリーなネタだった為に、言葉に詰まる。恐らく純粋な興味なのだろうが、今のオレにはちゅー太に返せるものが何もない。
普段なら適当に流せる話には違いないが、何分今はそれが不可能なのだ。
…それに、相手はちゅー太。ちょっとした動揺で心内を見透かされてしまいそうで、少し怖い。
「…さぁな。お前は何になりてぇんだよ」
アンサーとしては、こういう時は相手に疑問を反転させること。さすれば回避可能である。……が、
「オレは、レン兄の将来について聞いてるんだけど」
それは相手が良い意味で鈍感なケースであり、人の感情の推移に敏感な人には通じない。…正に今のコイツの返しが良い例だ。
再び言葉が詰まる。目を合わせて居られなくて、顔を伏せた。
どんなに勉強したって、やりたいことは見つからないんだ。まずは勉強するより自分のやりたいことを見つけることを優先するべき。
…オレは順番を間違えた。
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