大家Cの書庫
□寂しさを越えるくらいの幸せな時間が経ったら
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「利久斗に何渡したんですか。副会長」
帰り際の会計へ、ボクは素敵な贈り物をした。その一部始終を書記がバッチリと目撃していたらしい。
不審なものを見る目が、真っ直ぐにこちらを向いていたので、ドアの側から移動しつつ会話を楽しむように返答する。
「大上さんは、何だと思ってるんですか?」
「良からぬもの」
即答で返ってきた一言に、思わず吹き出してしまう。
気が緩んでしまっている証拠だとは思ったが、今は気を張る必要もないので良しとする。
大上さんの側まで近寄り、ぬくぬくと炬燵に入り浸っている右斜め前にボクも足を入れた。
「今日はこれを運んでくるだけで、仕事が終わりだとは思わなかったよ」
「あー…そうですね」
話を変えられた不満を顔全面に出しながらも、黒髪が適当に相づちをしながら頷く。
会長はといえば、今日は十二支荘のみんなでパーティーをするのだと早々に生徒会室を飛び出した。
それを利久斗が苦笑いをしながら見送っていたので、不思議に思ったボクが尋ねたところによると、なんとも不憫な話。
だからこそ、ボクのプレゼントを利久斗は年明けにでも、きっと上手く使った報告をくれるだろうけれど。
「あのプレゼントをボクらで使ってもよかったのだけれどね」
「……ら?」
「あぁ、違ったね。主に貴方が得をするものばかりが詰まっているよ」
「…会長」
おおよその検討がついたのか、大上さんは同情するようにぼんやりと被害者になるであろう人の役職を呟いた。
向かいの壁にかけられた時計を見上げれば、時刻はまだ昼の2時。
終業式の日は学校が早く終わり部活もないので、さっさと帰ってしまった生徒たちの声は全く聞こえない。
「大上さんは帰らなくて平気ですか?」
「は?何で」
「ご家族が待っているでしょう?」
何故なら今日は24日。どこの家も…例え無宗教だって、パーティーを開く。とても不思議な日。
ボクからしてみれば、ただの平日とあまり代わり映えはしないのだけれど。
机の上に乗せられたカゴから丸いみかんを取り、裏返して親指を軽くさし剥いていく。
「食べるかい?」
一粒ミカンを口元に近づければ、怒ったように目をつりあげた顔が視界に映る。
意味がわからずに首を傾げれば、大きな溜め息を吐いてから、鋭い犬歯の生えた口がミカンを食べた。
「お前って頭良いくせに、結果バカだよな」
「ボクは生まれてこの方バカと云われたことはないよ」
「じゃあオレが今までの分何回でも云ってやるよ。バーカバーカ」
なにが彼を不機嫌にさせてしまったのだろうか。
しかし、バカといわれるのは珍しいことなので嫌ではない。
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