ロング(復活)

□大空姫の逃亡劇 番外編
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まだ綱吉が死んでいたころ、誕生日を祝われた記憶はない。生まれたばかりで親元から離され、自分を事あるごとに蔑むような大人たちばかりのこの場所に閉じ込められて、本で見たようなささやかでも幸せに溢れたパーティなんてものはあるはずがないのだから当然だ。あるとしたら精々、こんな屑に生まれてきたけれどこれほどの恩恵が受けられる血筋に生まれてきたことに感謝するんだな。なんて皮肉めいて言われるくらいだ。だから綱吉は祝われるということを知らない。知らなかった。4歳のあの日まで。






「つーなーちゃぁぁぁん!!!」

「ルスねぇ?」


今日の分の宿題を片している最中に大きく扉が開かれた。驚いて振り返った綱吉はさらに大きく目を見開く。そこにいたのはよく見知った顔ではなくて、つぶらな瞳をした大きなクマの顔だったから。


「え…?」


目をパチクリとして予想外のことになにも言えずにいると、そのクマの横からひょっこりと見知った顔が顔をのぞかせた。


「ツナちゃん。お久しぶり!!!」

「あ…ルスねぇ。」


ほっと息を吐く。それと同時に正常な思考が戻ってきた脳は綱吉に疑問を浮かばせる。


「?どうしているの?」


ルッスーリアは…というかヴァリアーの面々は今、ある任務についている。その任務に行く前に会いに来てくれた時は最低でも一カ月はかかるという話だった。その時からまだ一週間。本来はここにルッスーリアがいるはずはないのだ。大きなクマを両手で受け取りながら、綱吉は首をかしげた。その様子はまさに天使。ルッスーリアはこれでもかというくらい目元を緩める。サングラスで見えないが。


「ンン〜、もう!!!!ツナちゃん天使!!!!」


我慢できずと綱吉に抱きつこうと飛び着こうとする。その突発的な行動に驚く綱吉。それは一瞬のことだった。宙を飛ぶクマ。一瞬で冷えた光をたたえた琥珀色の瞳。くり出された小さな拳はまるで弾丸のように鋭く。吸い込まれるようにルッスーリアの急所…鳩尾に。鈍い音が響いた。その音に綱吉がハッと息を飲む。慌てて手を引く。その瞳には底光りするような冷めた光はもうなく、ただ辛さと不甲斐なさに染まって悲しく揺れた。


「る、るすねぇ…?」


おそるおそる声をかける。彼は先ほどから俯いてしまっている。まさか、まさか。ボンゴレ一の暗殺部隊といわれる彼らの一員であるルッスーリアが綱吉の拳一つでどうこうなるなんて思っていない。でも、もしかしたら…そう思って綱吉は身を震わせる。おそるおそる動かない体に手を伸ばし、そして…


「わ!!」


その体を力強い腕に抱きしめられた。


「る、るすね…」

「も―――!!!可愛い!!可愛すぎるわ!!ツナちゃん!!!」

「え、あ、あの…!?けが…」

「あんなの子猫に噛みつかれたくらいよ!!!ボスにボコボコにされるより軽いわ。」


グリグリと綱吉に頬ずりするルッスーリア。されるがままになっている綱吉はさりげなくルッスーリアが気にすることはないと言ってくれているのだと悟って泣きそうな気持ちでふにゃりと笑った。そんなほのぼのとした空間。だったはずが…後ろから何やら重い空気が漂ってくる。そちらに目をやった綱吉はまたもや驚きの面々に大きく目を見開いた。


「みんな…!!」

「あら…?……早かったわね―…」


綱吉の声に後ろを向いたルッスーリアはサッと青ざめる。後ろにいるボスが怖―い顔をさらに凶悪にしていたからだ。後ろに文字が見える。可愛い、可愛い妹に何してんだ。羨ましいぞ。って文字が見える。普段の行いとプライドが災いして抱きしめるなんてできない男はそれが躊躇なくできる男(心は女)に激しい妬みという怒りを向けている。あ、これ終わったわ。ルッスーリアは人生終了のお知らせを聞いた。








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