リクエスト
□切ない恋ごころへ5題
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1、彼にむける感情に色がつく
近頃気づいたことがある。
いつの間にか視線は彼に向いていた。
気づかないうちに目で追っていた。
教室から時折見えるその姿を目に焼き付けることが増えた。
風紀検査の朝、普通なら避けるはずなのにわざわざ彼の列に並ぶようになった。
チェックの間は彼の綺麗な白い指が動くさまをじっと見ている。
顔なんて見れない。見れるわけがない。
そんなことしたら無駄にかみ殺されるだけだ。
そして「問題なし。」そう言われる声を心待ちにしている。
その美しい低温の声に聞き惚れる。
今まで遅刻の常連犯だったのに、ブラックリストっていうか風紀違反者、そんな彼にとって最悪の印象を持たれたくなくてこの頃遅刻していない。
それでもギリギリだから意味ないと言われればそれまでだけど。
「…なんでそんなこと、気にしだしたんだろう?」
考えても答えは出ない。
彼のことを考え出すと胸の奥がきゅぅぅっと苦しくなる。
それ以外にヒントはない。わからなくて、どうしようもない。
胸の苦しさだけが激しくなる。
そんな時にふと耳に入った女の子たちのそういう話。
ギクリと震えた。
その人を見ると鼓動が跳ねる?
いつの間にか目で追ってしまう?
少しでも良く見られたい?
その人のことを思うと胸が苦しくなる?
なんてことだ。
恋する乙女らしい彼女たちがいう症状と俺に今まさに起こっている症状が同じだなんて。
「俺…好きなの…?」
ドキンッと何処かが跳ねた。
甘い心が体中に浸透する。
瞬時に俺の隅から隅まで浸透していったそれはまるで酔ったような酩酊感と同時に身を切られるような切なさを含んでいた。
「…どうしよう。」
戸惑う。
荒野に一人放り出されたような心細さを感じる。
だってあまりにも現実味がなかった。
盲目になるには俺はあまりにも穏やかに自覚しすぎてしまった。
叶うはずがないんだ。気づいた恋は終わりを迎えていた。
はじめましてさようなら
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