リクエスト

□覆い隠される大空
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ドカッ…バキッ…




痛々しい音の響く体育館裏。それに混じって思わず眉をひそめてしまうような汚らしい笑い声と罵倒が響く。
しばらくすると飽きたのか…音がやみ、ぞろぞろと大人数が歩いてきた。その顔は見るも絶えないほど醜く歪んでいたのだが、彼らは気づかない。
そして彼らが去った後にはひとりの『少年』がボロボロに傷つき、地面に倒れていた。
少年がピクリとも動かずに倒れ伏して、しばらくしたころ…慌てた様子で駆けつけてきた漆黒の影。
少年の目の前まで来ると足をとめ、呆然として呟いた。


「つ、な…よし……」


その声を聞いた途端にピクリとも動かなかった『少年』…綱吉がうっと呻き声をあげて力の入らない体を叱咤し、顔だけをかろうじて上げた。
影を確認すると、ふにゃリと力なく笑った。


「お、帰りなさい…ヒバリさん。」
「綱吉…」
「お仕事、ゴホッ…終わったんですね。お、疲れ…さま、で、す。うっ…」
「綱吉…!!」


痛みに顔をゆがめた綱吉にフラフラと悲痛な声を出して影…雲雀が近づき、その血と砂でまみれた汚れた体をそっと抱き寄せた。
ぬくもりを感じた途端に綱吉は痛みではなく顔をゆがめると…ポロポロと涙を零した。
動かない腕を無理やり上げ、雲雀にしがみつく。


「ひ、バリさん!!…ヒバリさん、ヒバリさん!!」
「綱吉…!!」


涙を流して悲痛な声で泣く綱吉を雲雀はずっと抱きしめていた。









草壁は主が抱えてきた人物を一目見て、驚き…ひどく悲痛な辛そうな顔をした。
そんな草壁に構うことなく雲雀は泣き疲れて眠ってしまった綱吉をそっと起こさない様にソファに横たえる。
その額をそっと慈しむように撫でながら顔だけを草壁に向けた。
草壁は思わず後ろを向いて逃げ出したくなるほどの殺気を浴びせられる。
背筋に冷や汗が流れるのを感じるが、草壁は逃げなかった。
むしろ殺されても仕方がないと思っていた。
草壁は雲雀の留守中、並中を任されていたのだ。
なのに、風紀の乱れを正せないどころか、主と定めた雲雀が幼いころから慈しみ守ってきた彼の大切な……それだけではなく、妹の様に思っている自分にとっても大切な…彼らの幼馴染を守ることができなかったのだ。
自分の不甲斐なさに草壁はいっそのこと殴り飛ばして欲しい思いだった。
唇をかみしめ、目を伏せる草壁のそんな思いを感じ取ったのかどうか…雲雀はとりあえず手を上げることもなく言う。


「哲…どうしてこうなったの。僕がいない間になにがあった?」
「へい……始まりは一人の女子生徒が転校してきたことからでした。」
「転校生?…僕は聞いてないけど?」
「それが…校長が恭さんに無断で入学させたそうでして…」
「ふぅん……」


雲雀の目が細められる。
鋭くなった殺気に草壁は背筋を震わせる。


「…まぁ、それは後でもいいか……それで?」


催促する雲雀に草壁は今までの調査報告書に目を落とした。
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