頂き物

□お家デート
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振り向いた雲雀に、綱吉は言葉を失う。口をポカンと開けたまま、雲雀を凝視していた。
「どうしたの?綱吉」
「…あ……メ…メガ…ネ?」
 辛うじて、それだけが口から出る。
「ああ、コレ?」
 雲雀は眼鏡を掛けていた。しかし、彼の目は悪くないはずだ。遠視でも、近視でもない。伊達眼鏡を掛けるような趣味もない。
「前にパソコンを使うと目が痛くなるって言ったら、副委員長がコレを持ってきたんだ。目に有害な光を和らげるらしいよ」
 最初は半信半疑だった雲雀だが、確かにこの眼鏡を掛けていると目が痛くならなかった。以来、愛用しているらしい。
「そ…そう…だったんですか。え〜と、その…よく、似合いますね」
 最初は見慣れない眼鏡姿に驚いていた綱吉だが、今は言葉以上に感動していた。

 草壁さん、グッジョブ!カッコいい!眼鏡の雲雀さんカッコいい〜!!

 心の中で、副委員長の草壁哲矢に感謝する。綱吉は常に雲雀をカッコいいと思っているが、眼鏡というものはまた違った魅力を引き出すらしい。
 お手伝いさんが持ってきてくれたお茶とお菓子を頂きながら、綱吉はパソコンに向かう雲雀をうっとりと眺めていた。普段と少しだけ違う大好きな人の姿は、ちょっとドキドキする。
 静かな部屋に、パソコンのキーを叩く音だけがリズミカルに響く。完全防音というだけあって、外からは雨音一つ聞こえてはこなかった。

 本当に静かだなぁ…

 雲雀がこの部屋を好んで使う理由が分かった気がする。群れを嫌う彼にとって、此処は独りきりになれる場所だ。そこに自分が居られることの幸せに、綱吉の顔が思わず緩む。
「なにをニヤニヤしてるの?」
「ふぇ!?」
 緩んだ顔を両手で押さえる。雲雀が振り向いて、綱吉を見ていた。
「ニ、ニヤニヤなんてしてません!」
「…ふぅん」
「う…だ、だって、雲雀さんと一緒に居られるの久しぶりですし…」
「そうだね。ごめん、なかなか時間が取れなくて…」
「へ?あ、いえっ…そんなつもりじゃ…俺は仕事してる雲雀さんもカッコ良くて好きですから!」
「そう?でも残念。その仕事、今終わったよ」
「え?」
 よく見ると、パソコンの画面は消えていた。
「それとも、引き延ばした方が良かった?」
「そ、そんなことっ…ない…です」
 仕事をする姿は確かにカッコ良い。でも、それを眺めているだけではやはり足りないのだ。
「それは良かった。仕事ばかりじゃ僕の綱吉不足が解消されないからね」
 椅子ごと体を向けると、雲雀は腕は広げる。
「おいで」
「…え、あ…」
 そう言われてしまうとなんだか恥ずかしい。でも、最後は思いっきり腕の中に飛び込む。
 抱き合いながら、お互いの体温や感触、匂いや息づかいを全身で感じていた。久しぶりの抱擁は、心地良いのに少しくすぐったい。
「…綱吉」
 呼ばれて少しだけ体を離す。一瞬の浮遊感の後、綱吉は雲雀の膝に横向きで座らされていた。
 綱吉の柔らかな髪を楽しむように弄りながら、雲雀は額に、目蓋に口付けをする。その唇が唇へと降りてくる途中、不意にその動きが止まる。どうやら眼鏡が邪魔だったようで、細いフレームに手を掛け外す。
「あ…」
「ん、なに?」
「いえ、眼鏡の雲雀さんなんて滅多に見れないだろうから、ちょっともったいないなって…」
「そう…」
 雲雀は一度、眼鏡と綱吉を交互に見てから、眼鏡を机へと置いた。
「でも直接綱吉を見たいから、やっぱりいらない。それに…」
 グイッと顔を引き寄せて、唇を重ねる。
「ない方がキスがしやすいからね」
 そんなことを言われては、もう掛けてくれとは頼めない。それに綱吉は、やはりいつもの雲雀が一番好きなのだった。





 誰も邪魔が入らない書斎で二人っきり。雲雀と綱吉は、思う存分イチャイチャラブラブしていた。
「綱吉、今日は泊まっていきなよ」
 それでも足りないのか、雲雀がそんなことを言い出す。
「え、でも…なんの準備もしてないし、母さんにも…」
 綱吉が迷っていると、唐突にどこからかパチンという音がした。それは微かだが、外からの音が入らないこの室内では、かなりしっかりと聞こえた。
「雲雀さん…今の…」
 不安げに辺りを見回すと、再びパチ…パチン…と鳴る。綱吉はビクリと身を固くした。完全防音のはずの書斎で、何もないところから音がする。これはもしかしたらもしかして、噂に聞く心霊現象のアレではなかろうか。綱吉は、お手伝いさんから聞いた書斎にまつわる噂話を思い出してしまう。
「ま、また鳴りました!」
「うん、鳴ったね」
「な、なな、なんでそんなに冷静…こ、これって、ラ、ラララ…ラッ…」
「ラップ音?」
「うぎゃあ!」
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