ミックス(混合)

□災難なクリスマス
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渋谷にあるとあるオープンカフェで、明るい色彩の髪を持つ二人の少女が荒れた雰囲気を醸し出していた。
うつむいてそれぞれがブツブツ言っていたと思ったら、顔を勢いよく上げ、同時に叫びだした。

「あぁ――――!!!あんのワーカーホリック研究馬鹿めぇぇぇ!!今日がクリスマスとかぜぇぇったい、忘れてるよぉぉ!!どうして新しい論文とか来ちゃうわけ!?おかげでせっっかく取り付けた約束おじゃんじゃん!!?」
「馬鹿ぁぁぁ!!どうしてこういう時に限ってあの人に喧嘩とか売っちゃうのぉぉぉ!!?戦闘狂の恭弥さんが行かないわけないじゃん!!ただでさえ会えないのにぃぃぃ!!!」
「「なんでわざわざクリスマス!!!?」」

声をそろえてそれだけ吠えると、ガクッと同時にテーブルに突っ伏す。
そしてまたブツブツと呟きだした。所々聞こえてくる単語に耳をすませると「どうせ」とか「恋人なんて」と言っている。
そんなキノコでも生えそうな鬱蒼とした空気を発生させているこの二人…麻衣と綱吉はある騒動で知り合って以来、度々一緒に遊んだり麻衣のバイト先でお茶をしたりと、とても仲の良い友達である。
そしてそんな二人は目下お付き合い中の恋人がいたりする……のだが、麻衣の恋人であるナルは先日届いてしまった論文に夢中。
綱吉の恋人である雲雀は先日どこかのマのつくお仕事の方に喧嘩を売られたとかで…どこか日本から遠い異国の空のしたで嬉々として瓦礫の山を製造している頃である。
そのため彼女たちは暇と寂しさを持て余してどこもかしこもカップルでにぎわう町にくり出した所、たまたま同じような雰囲気を醸し出していたお互いと出会った。
それからはいうまでもなく…こうしてカフェでお茶を飲みながら思いのたけを叫び続けていた。

しばらくブツブツと呟いたり、時折叫んだりしながら愚痴っていたが…急に勢いがなくなり、ついには重苦しいばかりの沈黙が支配した。

「そりゃぁ、さ…論文だもん。いつものことだけど…慣れてるけどぉぉ……はぁぁ…」
「一にも二にも戦闘大好きだけどさ…急にキャンセルになるのだって……初めてじゃないよ…でも…はぁ、そうだよね…」

はぁ…と大きな溜息がそれぞれに口からこぼれる。

「「(ナル/恭弥さん)だもんねぇ…」」

重なった言葉に思わず顔を見合わせる。
お互いの顔を見つめると、ふきだした。

「ふふ…そうだよね。ワーカーホリックの渋谷さんだもんね。」
「そうそう!!論文が一番の恋敵なのさ。ツナだってあの雲雀さんだもんね。」
「そうなんだよ。恭弥さんの喧嘩相手に嫉妬しても不毛だよなぁ…」
「うんうん。お互い大変だねぇ。」
「本当だよ。」

顔を突き合わせてクスクスと笑いあう。
結局どんなに寂しい思いを受けようが、不満をこぼそうが好きなのだ。離れることなんて不可能に近い。というかできない。
それに悔しい事にそういう所も嫌いではないから余計にたちが悪い。
似てないようで似ている恋人たちを想いながら、少女たちは同じような悩みを持つ自分たちに苦笑する。そしてこの日に望んだささやかな願いを口に出した。

「「一緒にいるだけでよかったのにね。」」

「ツナも?」
「麻衣も?」

同じ願いに目を見張る。特別な日に特別なことをするでなく、一緒にいるだけでよかった。そんなささやかな願い。
その願いさえ叶わなかった二人はフッと少し寂しげに笑いあうと、泣きそうになってしまうそうなしんみりとした気持ちを吹き飛ばそうとことさら明るい声を出す。

「二人でパァッと遊んでこっちも忘れてやる?」
「こぉんな日に放っておくのが悪いんですよぉ、って?」
「そうそう!!だって聖なる恋人たちのクリスマスだし?」
「放っておかれた恋人が浮気したって責められないよね。」
「予定だってな〜んもないし。」

先ほどの泣きそうな空気はもうない。二人がいたずらっ子の様な顔をして笑う。

「「じゃぁ、行きますか!!」」

少女たちはお茶をグイッと飲み干すと楽しげに再び街にくり出した。
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