ショート(復活)

□思い込みを込めたチョコを貰うには
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空も薄暗くなり始めて誰もいなくなった教室で綱吉はぼんやりと窓の外を眺めていた。
その片手には質素だけどとても丁寧に包装されたプレゼントの箱。
今日はバレンタインデーだ。今日が誕生日でない綱吉には、どう考えてもバレンタインチョコだ。
窓の外を見ていた視線をゆっくり箱に移す。
そして顔をゆがめた。それは自嘲に満ちた綱吉らしかぬ笑みだった。


思い出すのは手の中のチョコを渡そうと決心してドキドキしながら向かった先で見た光景。


閑散とした廊下を抑えられない緊張と嬉しさで頬を染め、固くなりながら歩いていた。
そして、もうすぐという所で見たのはラッピングされた可愛い箱を持ち、同じように頬を染めて、今まさに自分が向かっていた応接室へと入っていく少女の姿。
思わずピタッと足をとめた。
少女はこちらに気づかず室内へと消えて行く。綱吉はじっとその姿を見つめていた。そしてその姿が完全に消えて扉が閉められた音を聞くと、くるりと踵を返して走り去っていった。

教室に走りこむと扉を閉めてズルズルと座り込む。咄嗟に口を覆って何かが口から飛び出す前に閉じ込めた。腹の底がグルグルと渦巻いていた。
知っていた。彼は暴力的な行動が目立ってしまう人だけど東洋の美を体現したように綺麗な容姿をしていること。
理不尽だけどみんながどこかで頼りにしている所があること。
だから本当はとてもモテること。
だからきっと今日もたくさんのチョコを貰っているに違いない。
それはわかっていた。
わかっていたから女の子がチョコを渡しに来ていたのにはいいのだ。
それより綱吉が愕然としたのは…本当にその光景だった。
可愛くラッピングされたチョコを持った目一杯可愛くした薔薇色の頬をした女の子。
その光景はとても…とても合っていた。今日というこの日に。そういう行為に。そして…きっと彼と一緒に見ても。彼とあの女の子のツーショットは違和感なく当てはまるのだろう。
いや、あの女の子だけではなく、どんな女の子が彼と向き合っていても今日という日は違和感がないに決まっている。
自分なんかより何倍も。

綱吉は力なく俯く。ゆっくりと力が腕から抜けていき、綱吉の作ったチョコが転がった。それを見て我知らずに涙が伝う。
なんて分不相応なことを決心していたんだろう。彼にちょっとお茶に誘われたりしていたから思い上がってしまったんだ。
だからこんなふうに手作りでチョコなんて作って、四苦八苦しながらリボーンに指導してもらってラッピングまで自力でやって…きっと受け取ってもらえるなんて思ってしまったんだ。
少し前まではキラキラと輝いて見えた箱が今では醜い思い込みの恥知らずな物に見えた。


捨ててしまおうか


フッとそんなことを思う。こんな醜い物はサッサと失くしてしまうのが正しいのかもしれない。
綱吉はそう思うと、フラフラと力の抜けた足で立ち上がり窓へと近づく。
ごみ箱には捨てられない。
誰に見られるのか分からないから。
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